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『秘館物語』
【SM 官能小説】

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『秘館物語』-8

当時、彼はまだ三十路を迎えたばかり。しかし、旧知の仲であり、出資者でもある志郎の願い出を園長が断るはずもなく、二人の養子縁組は滞りなく行われ、ヒロ少年は生方志郎の養子となった。
 志郎は、自分の一字を与えて、改めて少年を“浩志”と名づけた。漢字の名前が嬉しかったのか、ヒロ少年こと浩志は、それを無邪気に喜んでいた。
 絵という互いの共通項が、その垣根を無くしてしまったのか、この親子は初めから本当の親子だったかのように、仲良く時を過ごした。
 志郎は基本的な事以外は、特別なことを決して教えたりはしなかった。とにかく基本に次ぐ基本を彼に叩き込み、画家としての骨組みをしっかりと築き上げることにしたのだ。
 浩志は物分りもよく、養父の言葉を充分に飲み込んでいたから、その教えを忠実に守り、画力の腕を瞬く間に向上させていった。小学生・中学生と成長していく中で、浩志が獲得した賞の数は、思い出して数えなければ記憶と数量が追いつかないほどであった。
 一般の生活においても、志郎は面倒見の良い父親であった。休みの日には共に釣りに出かけ、山の散策に出かけ、長期の休みの時には海外の美術館などへ足を運ぶこともあった。
 高校生になり、浩志が一個の男子としてある程度の成長を終えたとき、志郎は自分の絵を描く心得の中枢を彼に授けた。
『己の中にあるカオスを、余さずキャンバスにコスモスとして表現させよ』
 それを追求し、自分なりの答に昇華させることが今後の浩志の課題だと言い残すと、彼は単身、国内外への旅に出かけた。
 画家としての養父の姿を尊敬している浩志だったからそれを責めることなどしなかった。ただ、やはり突然にひとりにされた瞬間は、寂しくもあり恨めしくも感じた。しかしすぐにその状況に順応し、高校生活の中に自然に身を置く様になった。
 浩志は、人物画を描くのが大好きだった。なぜなら、彼にとっては人こそカオスの象徴であり、それを画家としての自分が持つフィルターを通し、キャンバスの中でどんなコスモスに昇華されるのか、その過程を主観の中で見ることが好きだったのだ。
 そんなときに、後に美術部長となる同級生の少女と出逢った。同じひとり暮らしという相似した境遇、同じ絵画に対するストイックなまでの態度。その他ありとあらゆる面で互いに惹かれあい、すぐにふたりは恋に落ちた。それこそ、未成年とは思えないほど、熱く茹だるような激しい恋だ。芸術に精神を燃やしている若さ故に、それは激しく燃え上がったのだろう。
 浩志は、一度だけその少女の裸婦画を描いたことがある。モデルも快く引き受けてくれたというのに、なぜか上手く描けなかった。出来上がった裸婦画は、確かに少女の美しさを余さず表現しているというのに、何かが足りない。
 いつかそのやり直しを、と考えているうちに三年生となり、卒業と同時にその恋も終わって、二枚目はとうとう幻に消えた。
 浩志が志望の美大を落ちたことは、懇意にしている雑誌ライターからのルートで志郎の耳に入っていた。彼はこのとき、既に館の人だったのだが、そこですかさず、浩志のもとへその雑誌ライターを派遣し、そのまま浩志を館に連れてこさせたのだ。
 思いもかけない別荘の存在に、浩志は激しく驚いた。そして、志郎の隣にいる二人の女性の美しさとその出で立ちに、更に驚きを募らせた。
 高校時代、交流のあった漫画部の面々が、えらく好き好んで描いていたメイドの姿が、寸分違わずそこにあったからである。
 物語は、浩志がそんなメイド二人のいる養父の別邸へやってきてから、3日が過ぎた辺りに遡って再開しよう。


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