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『秘館物語』
【SM 官能小説】

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『秘館物語』-24

「………」
 朝だ。窓から差し込む薄明かりが、今は朝だと彼女に知らしめる。昨夜の嵐が嘘のような、静寂で優しい光である。
「ん……」
 寝返りをうとうとして、自分の隣に暖かいものがあることに気づいた。
「起きた?」
 浩志だ。それで碧は、昨夜の全てを思い出した。意外に寝起きがいい、彼女ならではのことである。
 同時に、その頬が火を噴いた。
「おはよう、碧さん」
「あ、あ、あ、あの、あの、お、お、おはようござ、ございま、す!」
 うろたえている。それは、そうだろう。
 浩志に全身を愛撫され、中に彼を迎え入れて性の高みを見た。どうやらそのまま自分は眠ってしまったのだろう。
 体は綺麗に拭かれ、汗に濡れたとは思えないほどさっぱりしていた。傷跡に向かって浩志は射精をしていたが、その部分も綺麗になっていた。
(ああ〜……)
 どうやら、全ての後処理を、彼はしてくれたらしい。この館の主のご子息に、そんな恩寵を受けてしまい、自分はメイドとして失格なのではないだろうかと、生真面目な部分が顔を出す碧であった。
「ご、ごめんなさい! わたし、勝手に眠ってしまって!」
「可愛かったよ」
「え?」
「起こすのが、勿体なくてね。ずっと、見てた」
「………」
 申し訳なくて、恥ずかしくて、顔を上げられない。
「好きだよ」
(あっ……)
 だが、浩志に優しく頬を支えられ、顔を彼の間近に向けられたかと思うと、唇に温かいものが覆い被さってきた。
「んっ……」
 キス、をしてくれている。その暖かさに癒されるように、碧の心は穏やかを取り戻した。
「碧、好きだよ」
 その唇が離れ、恋しい人が紡いだ自分の名。相手は年下であるはずなのに、まるでそう呼ばれることが前世からの決まりであったかのように、碧の胸に、すっ、と降りてくる。
 胸に渦巻いていた昨夜の嵐を思わせる気持ちは、今は穏やかなものに変わっている。碧の中に吹き荒んでいた乱気流は、平常な風の流れを取り戻したようだ。
「浩志さん、嬉しいです……私も、貴方が好き……」
 だから、素直に言葉が出た。
「碧……これからも、よろしく」
「はい……」
 そう言って二人は、もう一度、接吻をかわした。



 ―第2話「訪問者」に続く―


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