『秘館物語』-22
「浩志さん、きて……お願いです……」
「碧」
「抱いて……最後まで……私を……女に、してください……」
とても年上の女性から貰った言葉とは思えない。頬を染めながら、微かに震えてみえるその姿に、いつか外国の美術館で見た聖処女の絵を思う浩志であった。
「ゆっくり入れるから……保ちそうになかったら、言うんだよ」
「は、はい……」
痛いほど伝わる彼女の緊張を和らぐため、優しく頬を撫でる。そうしてから、いきり立つ己の先端を、熟れて柔らかくなっている碧の膣口にそっと押し当ててみた。
「あ、あっ……」
狼狽を含んだ碧の吐息にかすかな躊躇いを感じながら、浩志は腰を進めた。
「あ……」
亀頭の、本当に先の部分が碧の粘膜をわずかに押し広げる。二度の絶頂により、すでに秘処の潤み具合は最高潮に達しているから、頭全体はすぐに碧の胎内に埋めることが出来た。
「!」
しかし、途中で明らかな抵抗感が生まれる。
(やっぱり、怖いんだろうな)
それを碧自身も感じているのだろう。更に体を硬直させて、ひきつったような表情を見せている。
「………」
それでも何も言わない碧。彼女の強い覚悟と想いを感じながら、浩志はそれに応えるために腰を押し進めた。
ぴりっ……
「ひっ!」
碧の顔が、歪む。固く屹立している先端が、狭まっている粘膜を抉じ開けるようにして碧の胎内(なか)を進んでいく。
「……ッ!」
眉が、捩れる。それは快楽のものではない。はっきりとした苦痛が、その端正な顔を歪ませて、浩志に罪悪感を抱かせた。
「あ、く……ッ」
だが、やはり碧は指をくわえて言葉をとにかく飲み込んでいる。もしも自分が、何か負の言葉を吐き出してしまうと、浩志が途中でやめてしまうのではないかと不安に思っているのだろうか。だとしたら、あまりにも健気である。
ぴり……ぴり、ぴり……
「!!」
独特の挿入感。それは、初めて女性と契った時と同じ感覚だ。そして―――
ずっ、ずるっ……
「あっ、あ、あっ、ああっ」
一定の部分までたどり着くと、これまでの抵抗が嘘のように一気に中に滑り込んでいく感触も、その時と同じものだった。
「碧、入ったよ……」
「は、はい……感じます……貴方を、中に……」
思いのほか、挿入自体はスムーズだった。二度も高みを極めていた彼女の胎内の潤いが、処女膜そのものも柔らかくしていたのだろうか。
「思ったより……痛くはなかったです」
その言葉が真実かどうかは計り知れないが、苦悶に歪んでいた表情から、満たされ恍惚とした顔になっている様子を見れば、浩志としても安堵を覚える。
「気持ちいいよ……碧の、中……」
その安堵が心の余裕を生み、浩志は碧の胎内に収まっている自分自身の心地よさが一気に身体中に染みてきた。何かを切り裂くような抵抗感は既になく、陰茎を覆っている粘膜は自分を歓迎するかのように、ぴくりぴくりと震えを起こしながら絡み付いてきている。
「はぁ……あ、はぁ、はぁ……」
荒さを含んだ碧の吐息は、痛みがその大半であろうが、ひょっとしたら既に快楽のものの混じっているかもしれない。何となく腰がもぞもぞと蠢いているのは、股の間の違和感を愉しもうとしている可能性もある。
「くっ……」
その収縮具合に、浩志は昂ぶりが増す。およそ初めての接合とは思えないほど、碧の胎内は貪欲に性を求めている。それが、彼女の持つ“資質”なのだとしたら、開花した時はいったいどうなるのであろうか……。
「あっ、あっ……う、動いて……る」
それを開花させるのは、自分でなければダメだ。不意に湧き出した独占欲とエゴが、浩志の腰の前後運動に繋がった。
ずっ、ちゅっ、ずっ、ずっ……
「あ、くっ、ひっ……んっ、んっ……」
最初はゆっくりと碧の胎内を往復する浩志。破れ、傷ついた粘膜を擦るのだから、いきなり激しい行為に及べば、それは並ならぬ苦痛を与えることになるだろう。
「ん、くっ……ひ、浩志……さん……」
だが、思いのほか碧の反応がいい。捩れている眉が、どちらの感情をあらわしているのか判別できないほど、碧の呼吸には痛みの感覚が薄いように浩志には思えた。
(痛いのを、隠しているのかな)
そう思ってしまうほど、碧は従順に浩志を迎え入れている。