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『秘館物語』
【SM 官能小説】

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『秘館物語』-18

「欲しいなら……あげます」
 碧は立ち上がった。そのまま浩志の傍により、微動だにしない彼の頭を腕で包み込む。
 浩志の額は、傷に押し当てられた。肌の感触と、何ら変わらない。
「浩志さんの望むままに、私をどうにかしてください」
「どうにかって……」
 ぎゅう、と胸に押し付けられた。不安を感じているのは、碧も同様なのかもしれない。
「私は、あなたが好きだから……」
「………」
「あなたになら、なにをされてもいい……」
 言葉と動きが伴わないのは碧とて同じことだった。抱きしめている腕が、かすかに震えている。浩志の頭を胸に押し付けたまま、かたかたと揺れている。気持ちのせめぎあいを、示すかのように。
「碧さん」
 その震えを額に受け止めて、浩志は覚悟を決めた。その覚悟を、碧の背中に腕を廻し、その細い腰を包み込むことで伝えた。
「欲しいよ、碧さん」
「はい……抱いて、ください……」
「うん」
 もう言葉は不要だ。浩志はそのまま碧の身体を大樹からもぎとるように、ベッドへと押し倒した。もちろん碧に抵抗の色はなく、その形のよい乳房をふるりと震わせながら、浩志の胸の下へ全てを預けた。
 傷は目に入る。しかし、浩志はそれ以上の魅力に見惚れていた。
 碧の肌。布地の熱いメイド服からは決して見えなかったその淡い肌色はきめが細かく、艶やかに浩志を誘っている。
「綺麗だ」
「………」
 ほんのりと朱に染まる頬。浩志はその頬に手を添えると、優しく撫でた。とても柔らかく、滑らかな手触りに酔ってしまいそうになる。
「柔らかいね」
「そ、そうですか……あっ」
 はむ、と頬に噛み付かれた。浩志の唇が、吐息を交えてとても熱い。その熱気が頬から届き、全身に愉悦を交えて散らばり、碧は身体を揺さぶった。
「くすぐったいです……あっ、あっ……」
 頬から首筋に降りてくる唇。時折、柔らかいものが肌をなぞってくるのは、おそらく舌の動きであろう。
「ひ、浩志さ……あむ……ん……ん……」
 唇がそのまま顔に乗り、碧の口を塞いだ。寸暇ないその動きに、碧はまいってしまいそうになる。
「む……んん……ん……んっ」
 ぬる、とした感触が口いっぱいに広がった。その柔らかいものが縦横無尽に口内を蠢いてくるので、碧は驚いて顔をそむけようとする。
「んんっ、んむっ、んむっ」
 しかしその動きは浩志の両手によって留められた。両頬を支えられ、碧は動けないまま浩志の舌に口内を犯される。
「んむっ……んん……んむ……」
 息苦しさと、生暖かい不可思議な感触に、頭に血が上ってきた。その峻烈な浩志の責めは、普段の温厚さからは想像もつかないことである。
「んっ」
 舌の先端が、なにかに突っつかれた。考えるまでもなく、浩志の舌に誘いを受けているのだ。びっくりして奥に引っ込めていた舌を引き出そうとしている。
「………」
 その意図はわかったが、やり方がわからなかった。しかしひっきりなしに誘いをかけてくる浩志の舌を無碍にするわけにもいかないので、碧は思い切って舌を押し出した。
「んぷっ」
 今度は浩志が驚いたように喉を鳴らした。あまりにも勢いが強かったのだろう。舌の上を滑るようにして碧のものが、そのまま喉の奥を突くように入り込んできた。
 慌てて口を遠ざけた浩志。
「あ、ごめんなさい……」
 何か粗相をしてしまったのか、と不安げな碧。浩志は苦笑しながら、額にキスを捧げた。
「こういうの、あんま慣れてない?」
「え……」
「あ、いや……失言だった」
 寝物語で、相手に聞くことではない。どうやらまだ嫉妬の情は胸に根付いていたらしい。
「慣れるもなにも……その……初めてですから……」
「へ?」
 ぼ、と頬を更に紅くして横を向いてしまう碧。あまりにあどけなく、可愛い仕草に胸が高鳴る。
「初めて?」
「はい」
 断言されてしまった。
 どういうことだろうか? 傷の存在を教えた初恋の人とは、こういうことにならなかったのだろうか?
(待てよ)
 手が届かなかった、好きな人……浩志は、考えるまでもなく碧の初恋の相手が誰だかわかった。
(父さん、か……)
 考えてみれば、この館にきたことによって碧は古傷を癒すことができたのだ。だとしたら、それを癒してくれた志郎にたいし並ならぬ感情を抱くのは当然だろう。
 真っ最中に、余計なことを考えている自分が少し嫌だった。


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