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『秘館物語』
【SM 官能小説】

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『秘館物語』-10

館での暮らしに、なにも志郎は制約を設けなかった。だが、折角の時間を無為にするわけにも行かず、浩志は、午前中は美術理論のおさらいをし、午後からは周辺の景色をスケッチして時間を過ごした。
 今日は、小さな池のある場所で色んな構図からこの池をスケッチすることにした。
 それが、三枚目ぐらいになった頃であろうか。
「浩志さん」
 背後で、鈴のなる音がした。
「碧さん?」
「はい」
 振り返るまでもなく、その持ち主はわかる。
 しかし、やっぱり顔は見たい。すぐに浩志は振り返ると、そこには午後の日差しに照り映えて、いつもと変わらぬ微笑をたたえた聖女の姿があった。
「やあ」
「やあ、です……あ、きゃっ!」
「わっ」
 突然、足を滑らせて、碧は派手にスッ転んだ。前方へのベクトルを有したまま後方へ体制を崩し、そのまま尻餅をついたためにスカートの布地が地面に引きずられ、瑞々しい太股が露になる。
 浩志も男だ。そこに真っ先に目が言ったのは、罪ではない……はずだ。
「いたた……おしり、また打っちゃいました……」
 露になっている太股も気にせず、臀部の痛みを訴える。“また”ということは、以前にも同じことはあったらしい。
「あ、あの……大丈夫?」
 さすがに正気に戻って、浩志はすぐに傍によって手を差し出した。
「ありがとうございます」
 嬉しそうな笑み。そっと重ねられた細くて柔らかい指に、浩志の胸は高鳴る。
「私、いつも転んで尻もちついてしまうから、望さんに“尻重”って、言われてるんですよね……」
 軽いよりはいいと思う。などという訳の分からないことを心中考える浩志であった。
 そんな小さな騒動も過去の時間。碧が用意してくれた軽食で小腹を満たしながら、浩志はスケッチブックを開いた。
 碧はそのままいたから、すぐに反応した。
「スケッチですね」
「今はこれしか、できないからね」
 いまはあの池を書いてるんだ。浩志はそうつなげた。
「ステキな絵……。こんなに綺麗な絵が描けるなんて、うらやましです」
 まるでお菓子を取り上げられた幼子のように、もの欲しそうにスケッチブックを覗き込む碧。興味が、あるらしい。
「わたしも前に、旦那様に教えてもらって望さんの絵を描いてあげたんですけど……」
 何かを思い出したように、ぶるりと身震いして、碧は顔を青ざめた。
「悪鬼羅刹の如く怒り狂って、一昼夜、館の中を追いまわされて、捕まったあとにおしりぺんぺんされちゃいました」
「おし……」
 目の前で無垢な笑みを絶やさない女性が、あの健康的で凶暴な望に折檻される図。なんとも、淫靡である。
「あの、浩志さん?」
「うっ」
 そんな心の図に意識を浚われていた浩志だったが、目の前にその無垢な笑みが飛び込んできて我に帰った。


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