第7話 蘇る願望-2
もう、考えれば考えるほどに、堪え切れなくなる欲求。
思わず私は、サイトの投稿規定を確認してみた。
すると、それは簡単なものだった。
写真さえ投稿すれば、後は管理人による審査の元でサイトにアップされるのだ。
私はすぐさま思い立つと、数枚撮ったうちの一枚を、スマホからパソコンに送った。
その一枚は、膝下からつま先だけを捉えた、日常的な雰囲気のもの。
投稿者コメントを、あたかもパートナーの撮影である様に装う為にも、角度的には無難な一枚だった。
『初めての投稿になります。出勤前に妻を撮りました。・・・・・・投稿者:ハリー(46)』
簡単なコメントを添えると、私は躊躇う事無く、その一枚をサイトに投稿した。
投稿者の年齢は任意だが、より現実味を帯びる為にも、実際の主人の年齢にもした。
もう引き返す事は出来ない。
私は、そっとノートパソコンを閉じると、両肩を抱いて少し身震いをしていた
気づくと、すっかり彼の事など頭から離れていた
彼の性癖に迫るつもりが、私の中で密かに眠る、複数プレイの願望を呼び起こした。
もちろん、彼の事を忘れたつもりは無い。
むしろ、彼から目覚めさせられた、少年の性と向き合う事の方が、身近な彼の存在によって現実味を帯びていた。
ただそれには、緻密な計算を重ねたシナリオを必要としていた。
未だに返信の無い、彼のLINE。
その壁が、私の気持ちを躊躇させて、思う様に先が見えてこない。
ならば、目の前にある欲求へと、私を駆り立たせる。
言うなれば、箸休め的な、欲求の解消でもあった。
「ただいま〜」
夕刻を過ぎ、私がキッチンに立っていると、玄関に入る息子の声が聞こえてきた。
先ほどまでは、投稿サイトの方に意識は向いていたが、すぐに行為に及んだ時の後ろめたさが頭を過る。
妄想の中で抱かれた息子の身体は、簡単に私の中から消える事は無かった。
「おっ・・・今日は冷やし中華か」
息子は匂いに釣られてか、いつもの様にすぐにダイニングへと入ってきた。
「え・・ええ・・・今日は少し暑いから、冷たいものと思って作ったのよ」
少し私は動揺したが、息子を前に何とか平常心で答えられた。
その前に、投稿サイトに意識が向いていたのも、要因だったのだろう。
とにかく、何とかその場は抑えられるようで、私は安堵した。
息子が部屋へ荷物を置きに戻ってくると、私達はダイニングテーブルで向かい合わせで食事をした。
息子は、よほどお腹を空かせていたのだろう。
中華そばの麺だけをすする音を、休む事なく響かせながら無言で食べていた。
私はそれとは対照的に、ゆっくりと中華そばを口に運ばせていたが、どこかおぼつかない面もあった。
思い出さない様にもしていたが、息子を目の前にすると、迎える時に脳裏に浮かんだその身体が頭の中を過る。
顔は思い浮かばなくとも、最後に抱かれていたのは間違いなく息子の身体。
例え妄想の中でも、そのボーダーラインを越えた代償は大きかった。
無言で息子が麺をすする音を響かせる中、私からも中々会話を引き出せない。
彼と遊んでいたなら、その話題を振れば良い事だが、彼をも意識してる為かこれも切り出せない。
そんな戸惑いが続く中、私が気づかないうちに、いつの間にか息子は食事を終えていた。
「ごちそうさ〜ん」
「綺麗に食べたわね。今日のは美味しかった?」
ようやく、会話らしい切っ掛けを作る事が出来た。
「う〜ん・・・お腹が空いてただけだから、味はまあまあだったかな」
「もう・・・あなたは本当に素直じゃないわね。一度くらいはお母さんの作った料理を、美味しいって言いながら食べてくれたって良いじゃないの?」
いつものひねくれた息子の態度に、どことなく気持ちが救われた。
私自身も、普段通りに言葉を返す事が出来た。
ようやく、本来の息子として接する事が出来る様にも思えてきた。
そんな肩の荷が下りた矢先、またもや問題を抱える事を、息子は切り出そうとしていた。
「はいはい・・・母さんの料理は美味しい。これで良いんでしょ?。その代わりと言っても何だけどさ、母さんに一つお願いがあるんだ」
「もう・・・気持ちが全然こもってないでしょ?。それで何か見返りを求めるわけなの?」
彼と遊んだからには、息子の定番でもあるスマホのおねだりが目に見えるようだった。
だが、それ以上に私を困らせる言葉を、息子は発するのだった。
「ねえ・・・今流行ってるポケモンGOって知ってる?」
「ええ・・・詳しくは分からないけど、最近色々と騒がせてるわよね」
スマホのアプリゲームだった。
「それでお願いがあるんだけどさ・・・・・・」
ここで間違いなく、息子のスマホのおねだりが来ると、私は思い込んだ。
「スマホは駄目よ。この前も言ったでしょ?。お父さんと相談して、必要になった時に買ってあげるって・・・・・・」
「それは分かってるよ。だから違うんだよ。それでお願いがあるのは・・・・母さんのスマホを少し貸してもらいたいんだ」
「だ・・駄目よ。それは絶対無理よ!」