旅行-4
その週の土曜日。
ちづるは朝の7時すぎに
家を出る事をタクミに言うと、
タクミも午前だけ学校がある為、
一緒に駅まで行く事になった。
外は、晴れていた。
2人はそれぞれ自分の家で支度をして、
市営住宅の外の自転車駐輪場で
待ち合わせる。
タクミが先に外で待っていると
すぐにちづるが外の階段を下りてきた。
水色の旅行鞄を持ち、
ドット柄の黒いジャンパーに
Gパンにスニーカー。
髪型はおだんご頭にしている。
いつものちづるの姿とは違い、
ラフな動きやすそうな服装だ。
「おはよう。」と、声を掛け合うと、
2人は駅に向かいながら話す。
タクミが言う。
「晴れてよかったね。」
「うん!
てるてる坊主作ったからかなー。」
「え? 作ったの?」
「ふふ、、 う そー!
作りそうって、思った?」
「、、、思った。」
「ひどーい。」
ちづるがあはは、と笑う。
旅行に行く楽しさからくる
テンションの高さを感じると、
タクミは少し
面白くない気分になった。
しばらく黙々と歩いた後
タクミが言う。
「新宿から、だよね?」
「うん。
新宿から箱根へロマンスカー!」
「、、 CM みたい、、。」
っつーか
本当 楽しそう
「箱根って結構近いのに
行った事ないなーって思って。
なんか急に楽しみになってきて
昨日は眠れなかったよ。」
「ふーーん、、。」
「写真、撮ったらラインで送るね。」
「、、なんの写真?」
「んーーと、
どっかのミュージアム?とか
行くみたいだから、、」
「ぁーー。風景とか?」
「うん。」
「んーー、、
それより、浴衣姿がいい。」
「 え?」
「旅館の浴衣ー。
着るでしょ?」
「えーー?
そんなの、つまんないよー。
でも、うん、、じゃあ
料理と一緒に撮ってもらうね!」
「うん。」
2人は駅に着いた。
北口の外の2階のエントランスは、
サラリーマンや学生の姿があるものの、
平日に比べると少ない。
タクミが
ファーストフード店を指しながら言う。
「俺ここで
コーヒー飲んでから行くから、、。」
「あ、そっか。
まだ早いもんね。
なんか、
付き合わせちゃってごめんね。」
「んーんー、、、。」
「じゃあ、私行くね。」
「、、。
ねーー、ちづちゃん、」
「んっ?」
「抱き締めていーい?」
「っ!? 、、 もちろん 」
「、、、駄目?」
「はい。駄目です。」
「ふふっ、だよね。」
「 ふふ、、 」
「気をつけてね。」
「うん。
行ってきます。」
ちづるはそう言うと、
改札に向かって歩き始めた。
改札に入る直前に
タクミの方を振り向くと、
まだ見送ってくれている。
ちづるは微笑んで手を振って
改札に入りタクミの視界から消えた。
タクミが呟く。
「 け ちーー。」
タクミは
ファーストフード店に入り、
学校に行くまでの時間を潰した。
それから、いつものように
電車に乗って学校へ行く。
電車に乗り、ふと顔を上げると
中吊り広告が視界に入る。
【新宿から箱根へ。
ロマンスカーで。】
「、、、っ はーーー。」
今は やめてよ
まぁ 一泊だし
そう 一泊 だ
、、 、なんか長く感じそう
っつーか あれか
やっぱり
俺のが ハマってんのか ?
タクミは電車から降りる前にも
ため息をついた。