初めての3P-1
「こんにちは、ボクは橋本豊と申します」
助手席からカメラを構える太田君に、橋本君は後部座席で自己紹介をした。類は友を呼ぶというが、橋本君も品のいい上品な顔立ちで好感のもてる男性だ。太田君とは大学の先輩で、卒業後ある商社に就職し転勤でこの地に赴くこととなったそうだ。
「いやぁ、マジかよ太田。こんな綺麗な人と――」
「もう、綺麗だなんて、おばさんからかうのはよして」カメラが運転席に向くと笑顔でハンドルを握る妻が映った。
「先輩も見たでしょ、さっきの夏帆」太田君の言葉に橋本君は夢でも見たかのようにうつろな返事を返した。初めて会った女性があのような行為に及べば無理もないだろう。
今、妻たちが乗っているのは橋本君の営業用のステーションワゴンだ。先ほど待ち合わせたコンビニで乗り換えたのだ。
太田君の車でコンビ着いた妻は、助手席でカメラを回す太田君を残して一人で入店した。服装はオフショルダーの白いワンピースで、膝丈のいたって普通のものだ。ショーツとブラジャーも以前着用していたような地味なものを勧めた。その時の妻の表情はがっかりしているようにさえ見えた。
わずか一月ほどで期待を遙かに凌駕してゆく妻に、僕は複雑な思いを抱いていた。まさか妻にここまでの露出癖があったとは思いもしなかった。
「怖くないのか? 不特定多数の人に裸を見られて」食卓では当たり前の会話となっていた。
「いつもね、決まって最初は怖いわよ。脚は震えるし心臓は口から飛び出しそうなほどドキドキして……でも勇気を出して脱いでいくうち、だんだん吹っ切れてくるのよ。なんか……うんー、パチンッ! って何かがはじけて頭が真っ白になるの。そして、もっともっとって感じになっていくのよね」純真な瞳で真っ直ぐ僕を見て彼女は言った。
「気持ちいいの? 裸見られるの……どんどんエスカレートしてるけど」
「だってあなたのためになるんなら、へっちゃら」妻の笑顔に僕は何も言えなかった。
車内でカメラを構え太田君が説明してくれる。
「先輩の顔の特徴もなにも教えてないんです」妻は店内の一人一人に声をかけていた。
「なるべく注目を集めるように言っときました」彼女は大きな声で名前を呼びながら店内を徘徊しているようだ。
「まだ来てないみたいです」店員と話し始める妻を見て太田君の声が入る。「今日は暑いとかなんとか言ってると思います」ワンピースの胸元と裾を派手にちらつかせている。どうやら僕のブレーキは妻に利かなかったようだ。
このコンビニは太田君と妻がホテルに行く前によく利用しており、過激な衣装で何度も訪れている。派手な女性というより、すでに露出狂として店員には笑いのタネにでもなっているだろう。淫靡とは言え偶然を装いながら下着を露出しているだけだから、グレーゾーンといったところだろうか? 今のところ通報されたことはなく警察沙汰にはなっていない。
コンコンと車の窓を叩く音がした。橋本君が到着した。ちょっと待ってくださいと、太田君は車をコンビニの駐車場の奥へ止めなおしてエントランスに戻ってきた。二人は久しぶりだのなんだの話しながら、妻を撮り続けた。
「先輩、あれが夏帆ですよ」
店員に相手にされなくなった妻はアダルト雑誌のコーナーで立ち読みをしていた。客の一人が妻に話しかけてくると、世間話でもするようにワンピースの裾を持ち上げて、笑顔でショーツを晒す。
「おい! やばいって」妻の行為に橋本君は動揺した。
「大丈夫っす。なじみの人ですから。きっと、今日は地味だねとか言われてるんでしょう」太田君は平然と返した。「それより先輩、夏帆は先輩を待ってるんですから、いってあげて下さいよ」
「嘘だろ! 恥ずかしいよ」
「ですよねぇー。でも早く行かないとどんどん恥ずかしくなりますよ」
太田君の言葉通りだった。妻はワンピースの上から器用にブラジャーを外して引き抜くと男性に手渡して、何か頼みごとをしているようだ。首を捻る男性に妻はワンピースの裾に手を突っ込み、おもむろにショーツを脱いでそれを広げて見せていた。男性が頷くとショーツも渡した。ショーツの匂いをかぐ男性を見て、手の甲で口を隠して笑う妻は世間話をしているようにしか見えなかった。