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MOTHER 『僕』
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MOTHER『桜』-1

ピンポン

平日の昼間。両親共に共働きのうちには身重な私独り。
学校は行ってない。
つわりに襲われること 体育に参加できないことから噂を恐れて家にいる。

ピンポン

二度目のチャイムでモニター付きのインターホンで来客を確認する。

『先…生?』

慌てて階段を駆け降りる。
ガチャッ

重い玄関の扉を開けると 夢にまで見た 大好きな彼
『よぅ』

戸惑うような彼の笑顔。

『先生…』

込み上げてくる想いが今にも溢れだしそうだった。

『良かったら 散歩でもしないか?』

私はその言葉に自分でも分かる位に顔を輝かせ頷いた。

『人目があるから少し遠いけど 隣町の公園で先に待ってるから』

彼はそう言うと周りを気にしながら足早に去った。

『先生…』

とてもささいな事だけれど気遣ってもらえたことが嬉しかった。

隣町の公園は都心のせいか公園と言えば一つしかない。
遊具の何もないそこは桜の木だけが彩っていた。

『先生!』

桜の木の下に佇む彼を見つけるなり 私は小走りに駆け寄った。

『すまない。教職の身分で目立つことを避けたかった』

申し訳なさそうにする彼に私は何度も頭を横に振った。

『どうして?』

そう問う私に 彼は一瞬空を仰ぎ

『いや 会いたかった』

悲しそうに微笑む彼に嫌な予感が過った。

『学校にバレたの?』

唐突に私が聞くと 彼は少し驚いた顔をしたがすぐに小さく首を横に振った。

『歩こうか?』

ふぅと息をついてからゆっくり彼は歩きだす。慌てて私は彼のシャツの裾を控えめに掴み 彼の少し後ろを歩いた。

無言の時間。

私は自分でよく分かる程に舞い上がってる。
悲しい笑顔は気になるものの 学校にバレた訳じゃなかった。
何もないのに彼は私に『会いたかった』と言った。
その事実が嬉しかった。


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