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MOTHER 『僕』
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MOTHER『桜』-2

数日前見た現実が遠く思えるほど期待している。

(何か話さなきゃ。もう一度ちゃんと気持ちを伝える?それとも私の身体の変化を伝えてしまおうか。)

ドンッ!

『痛っ』

あれこれ考えているうちに急に立ち止まった彼に気付かず 彼の背中に鼻をぶつけてしまった。

『先生?』

目の前にある彼の背中は凛としていて陽だまりの中に溶けてしまいそうだった。
『…?先せ…』

伸ばしかけた手を振り払うかの様に 急に彼は180度反転し私へ向き直った。

『?』
笑顔で彼を見上げる。

とても。恐いくらいとても真剣な顔。

『すまなかった』

――――――――――?

笑顔が一瞬でひきつるのがわかる。

全ての音が消え 葉の擦れ合うザワザワとした音だけが耳にうるさい。

『…………え?』

むりやり絞りだした声は蚊の鳴く音よりも小さかった。

ふっと目の前の視界が開ける。

目の前には―――――――

『産婦人科』



嘘――。



ただ茫然と立ち尽くす私の足元から彼の声がする。

『オロシテクレ』

現実を受けとめられなかった。
数秒前まで幸せだった私。
紡ぎだそうとしていた言葉達と私の中の淡い期待は大きな音を立てて崩れ落ちていく。

『俺は最低だ。教え子に手を出して身籠らせた。』

――――教え子―――――
『あ…わたっ…私っ…』

瞬きもうまく出来ない私の目は大粒の涙が今にもこぼれようとしている。

『本当に 申し訳ない』

ゼンマイ仕掛けの人形の様に 徐々にしか下を向けない私からは彼の地面についた両手と形のいい後頭部しか見えない。

『あ…会いたい…って』

嗚咽でうまく言葉が出ない。

『俺 引っ越して転勤することにしたんだ』

目の前が一瞬にして白くなる。


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