カメラと妻-1
機械の右に張り出した小さな液晶モニターに、リビングの全てが入るよう三脚付のHDビデオカメラの位置を微調整する。先日購入したカメラだ。モニターに映る左手に太田君、右手には妻が座って談笑している。中央のローテーブルには、お酒や食べかけのつまみが並んでいた。テーブルの奥は少し広く空間が空き、カーテンを閉めたベランダの窓を背景に、大きなテレビが映っている。
妻はブラジャーに包まれた乳房を晒し唖然としていた。太田君は露わになったその部分を凝視していた。つい先ほどの事である。妻は何が起きているのか理解していないようで、ポカンと太田君を見ていたが、胸元に視線を落とす彼と目が合う事はなかった。
「なぁ! すごい気合の入れようだと思わないか?」僕の言葉に我に返った妻は、あわててキャミソールを引き上げた。
「何やってんのよ!」僕の肩を思いきり叩いた。
大声で笑っていた。本気で笑っていた。彼女は何度もお腹を抱え笑う僕を叩く。叩きながらやがて妻も笑い出した。
「ごめんねぇ、圭一さん。変なもの見せちゃってぇ」胸元を直しながら彼女は謝った。
「変なもんだなんてとんでもないですよ。夏帆の胸が見れて、自分とっても幸せっす」
三人で大笑いした。
「いつの間にそんなもん買ったの?」液晶モニターの妻がこちらを見て言った。
「最近調子いいだろ? 俺。趣味でも持とうかなぁって思ってさ」
カメラのセッティングを終え、妻の横に座る。
「今夜、とっても楽しいし記念に残したいんだ。ごめん。勝手にこんな買い物しちゃって」
妻の手を握る僕に彼女は「趣味を持つことは大切だから」ともう片方の手を添えた。仕切り直しと言い、僕は白ワインを開けた。妻のグラスにはなみなみと、太田君のグラスには半量ほど注ぐ。彼に酔いつぶれられては困るからだ。
「席替えしよっか!」僕は立ち上がり太田君の座っているソファーに向かう。彼はワイングラスを持ち、僕に急き立てられるように席を譲った。行き場のない彼に、妻は左手でポンポンとソファーを叩き自分の横に座るよう促した。
「圭一君? キャバクラとか言ったことある?」
僕の問いに彼は首を横に振る。
「もっとピタッって寄り添って、肩を抱いたり脚を触ったり、時には胸揉んだりするんだぜ」
「あなたそんな事してたの? バッカみたい」妻があきれた表情をする。
「バカみたいって、そんな事言ったら、圭一君が今からやりづらくなるだろ?」
妻が少し緊張したのが分かった。太田君は彼女の横に座った時点で緊張していた。
「ごめんね圭一さん、主人が変なことばっかり言って。今日のこの人、少しおかしいのよ」
普段の妻は僕に対して「おかしい」などとは決して言わない。酔いのせいもあるのだろうが、明らかに動揺しているようである。シミュレーション通りだった。
「今日も……だろ」
僕がボソリとつぶやくと、場のムードは一変した。妻のグラスにワインを注ぎ、まぁ飲めよと笑顔で言うと彼女は一気にグラスを空にした。口パクで「ごめん」と告げ、空いたグラスを再び満たした。
「あなたごめんなさい。つい。だって、圭一さんだってご迷惑よ、こんなおばさんが相手じゃあ。ねぇ」
「迷惑だなんて! 自分の方こそ夏帆に迷惑は掛けられません!」
目の前に座り、そわそわする二人を見つめた。
「社会勉強だと思って、夏帆の相手してやってよ」彼は首を横に振るのみだった。
「やっぱ無理だよなぁ」「そうよこんなおばさん」僕たちの会話にもそれぞれ首を振る。
「やっぱり嫌?」僕が聞くと大田君は大きく首を左右に振る。
「嫌じゃないっす。ただ、恥ずかしいって言うか……」
「しょうがないなぁ」
僕が立ち上がり二人の前に立ち妻にもっと寄るように言うと、彼女は恥ずかしそうに彼ににじり寄った。僕は太田君の右腕を妻の肩を抱かせるように持っていき、彼の左手をスカートからはみ出す太ももの上に乗せる。太田君の肩を抱いている右手を持つ手に力を入れると、妻の身体は倒れこむように彼の胸の中に納まった。妻の太ももの上の彼の左手も動かす。最初はゆっくりと小さく、そしてその動きを徐々に大きくしていった。妻は彼の胸に頭を寄せ、ワインを飲んでいた。太田君の左手はやがて、スカートの中にまで伸びてゆくようになった。積み上げたもろい積み木を崩さないかのように、そっと手を放しソファーに戻る。
「どう? 圭一君。手触りは」
「なんかマシュマロみたいでやわらかくて……」太ももの感触を楽しんでいるようである。
「夏帆。気持ち悪いか?」空いたグラスにワインを注ぎながら聞く。
「ん? 気持ち……いいよ。ごめんね、こんなおばさんで」
彼女は僕よりも太田君に気を使っていた。太ももをさする彼の左手が、妻の言葉を否定するように大きく動く。やがてコツでも掴んだかのように、その手はヒザから太ももの奥へと、何度も送り込まれていくようになっていた。スカートの左裾はすっかり捲れあがり、真っ赤なショーツを晒していた。わずかに覗くその中心部は、他とは明らかに色が変化していた。彼女が濡らしている所為だ。彼の手が付け根に到達するとその度に指先は、ショーツの色が変化しているところに触れている。
時折ワインを口にしながらも、目を閉じてぐったりと太田君に身体を預けている妻が、その愛撫を確かに楽しんでいることを、ショーツの色の変化の広がりが証明していた。