自宅のホステス-1
太田圭一、二十四歳。妻が言うように僕ですら見上げるほど背が高く、笑顔が魅力的で実直そうな好青年である。大学を卒業後、就職活動を散々したらしいが、ことごとく不採用でようやく現在の職に在り付けたと言う。彼曰く、大学は四流で名前すら教えたくないとの事。県下に百店舗以上チェーンを展開するスーパーに彼は勤務する事となった。本店で数瞬間の研修の後、彼の地元である現在の支店に来たのが二か月前で、妻はそこに勤めていた。彼は生果の在庫管理と発注を任されているらしい。初めは仕事を覚えるのに精一杯だったが、やがて仕事にも慣れ少し余裕ができるようになり、妻に魅力を感じるようになったと、夫である僕を前に臆することなく人懐こい笑顔を浮かべ正直に話す。妻をからかうようになったのは三週間ほど前からだと言う。妻のリアクションが好きだそうだ。大人の女性の美しさが、少女のようなかわいらしさに代わるのが楽しいらしい。
ダイニングのガラステーブルには、唐揚げや焼き鳥などがオードブルの様に並べられている。手作りの品もあれば、仕事終わりに妻がスーパーから買って帰ってきたものもあった。それをつまみに二人はビールを飲んでいる。僕はオレンジジュースを飲んでいた。
「それでね、川内さんに呼ばれてあわてて倉庫に行ったのよ。あの時はホントびっくりしたわ。店内全力疾走よ。運動会じゃないって言うの!」
酒に頬を赤らめる妻は、いつもにも増して明るく饒舌だ。弱いどころかむしろ酒が好きな妻だが、普段は僕に気を使って飲酒することはほとんどない。そのせいか今日は早々に酔っている様子だ。
「石井さん、あれは川内さんの所為ですよ。絶対そうですって!」太田君もすでに酔いがまわっている。
「夏帆でいいよ」僕の言葉に会話が止まった。
「この家では俺も石井だしさ、ややこしいじゃん。だからこいつの事は夏帆で」
僕は妻の頭を軽くポンとたたいて見せた。
「では、失礼ながら夏帆さんと呼ばせて頂きます。じゃあ、僕のことは圭一でお願いします」
酔っている二人はすぐに「夏帆さん」「圭一さん」と呼びあうようになった。楽しそうな談笑を僕はまた止めた。
「圭一君、夏帆でいいんだって、夏帆って読んであげてよ。若いイケメンから呼び捨てにされるなんて幸せだろ?」
妻の肩を抱き寄せながら、片方の手でグラスに注いだビールを飲むように勧める。妻は両手でグラスを口に運び僕に身体を預けてきた。
「圭一さ〜ん。夏帆って呼んでよ」空いたグラスを僕はすぐさまビールで満たした。
「じゃあ、か、か、かほ……夏帆」
低いガラステーブルの向こう側に配置した、一人掛けのソファーに腰掛ける太田君はテレを隠すように空のグラスを口に運ぶ。
「ほら、お客さんのグラスが空だぞ! そんなんじゃホステス失格だろ?」
僕の言葉に立ち上がろうとする妻を制止し、彼女のカーディガンのボタンに手をかけた。
「ホステスらしいカッコしなきゃ」ボタンをはずしてゆく。
「あら、あなたそんなトコ行ってるの?」
「若い頃な」笑顔でカーディガンを脱がす僕に、妻は何の抵抗も無く身をゆだねていた。露わになった小さな両肩に太田君の視線を感じる。身体に張り付くタイトでピンク色のチューブトップのキャミソールは、ハーフカップのブラジャーのラインをしっかり浮かび上がらせ、存在を主張するようにその部分だけ赤みを帯びていた。
彼女はその格好で、太田君の向かいに置かれた僕たちの座っていた三人掛けソファーから、ビールの缶を持って立ち上がりガラステーブルを迂回して彼の方に歩いて行き、中腰でグラスにビールを注ごうとしている。
「しっかーく」僕はおどけて見せた。
「お客さんに上から目線で、お酌はないだろ!」
僕の言葉に妻はひざまずき、そっと太田君のグラスを満たした。
「ごーかーく!アハッ」僕はその姿に本気で笑った。そんな僕を見てかそれとも酔っているせいなのか、満面の笑みで彼女は太田君の顔を見上げた。
「お客様。どうぞお召し上がりくださいませ」
僕は大笑いした。彼女もひざまずいたまま手の甲で口を隠し、クスクスと笑う。
「あ、ありがとう。夏帆」照れて一気に飲み干した太田君の手にする空のグラスを、妻はひざまずいたまま再びビールで満たし、クスクスと笑いながら三人掛けのソファーへと戻ってきて、席を譲るように腰をずらす僕の横に座った。彼女はちょうど太田君の真正面に位置した。
談笑を楽しむ中、右手を妻の左ヒザに乗せる。久しぶりの夫婦のスキンシップは、彼女もまんざらではないようだった。
「そう言えばさぁ」
僕は右手を一度押して引き戻す。頑なに閉じていたヒザが一瞬開く。太田君の視線を視界の隅に感じた。来た時から露出した妻の脚に、何度となく奪われていた彼の視線が、この瞬間を逃すはずはない。僕は何度も右手を押したり引いたりしながら妻に話しかけた。すっかり話に夢中ななる彼女は僕の方を向いている。僕は話しながらヒザをゆする力を強めていった。酔っているせいもあるのだろう、両手でビールを飲みつつ話に夢中になる彼女のヒザは、パクパクと大きく開いたり閉じたりしていた。
太田君、そこから見える光景はどんなだい? 出来れば僕も彼の席から見てみたと思った。そしていっそう激しく手を揺らした。
「そういえばね、太田君」僕の言葉に彼はとっさに顔を上げる。夏帆の股間を、しっかりと目に焼き付けていたのだろう。
「こいつ、君が来るからって意気込んちゃってさ、見てよこの気合いの入れよう」
そう言うと僕はチューブトップのフチに両手をかけ、一気に引き下ろす。
ハーフカップのブラジャーに包まれた、Cカップの妻の乳房が一度プルンと揺れ太田君の目に晒された。