特区のニーナ-1
大学は長い夏休みに入った。ルルの練習は勤めでもあるから、鉄矢に時間が増えただけで、会える回数は変わらなかった。
しかし、毎年、夏と冬の休みは、鉄矢にとって心弾む大事な時なのだった。親戚の子供が訪ねてくるのである。
親戚は北の「文化経済特別区」に住んでいた。隣国との共同開発・実験地域に指定された土地で、既に百五十年ほどの歴史があった。経済的な輸出入の規制緩和だけでなく、新商品や新薬、隣国との人の出入りに自由度が高く、居住者には税金の優待措置もあった。
しかし、居住者に異変の現れていることが、二世代目から確認された。まるである種の昆虫や魚のように、人種としての男女の形態が分離したのである。
男性はモンゴロイドとして、女性はコーカソイドとして、同じ親から生まれてきた。通常の混血にならなくなっていたのであった。そのほかに異常といっては見つからなかったが、生物としての重大な変化であると学者や政府は捉えた。原因は分からずじまいだった。この居住区域の真上に現れた彗星のせいではないかとの説すらあった。
今では規制緩和も抑えられ、危険な土地だと目されて、新規の入居者もほとんどなくなってしまった。そして、その姿に従ってとでも言うべきか、男性には日本語の、女性には隣国の言葉の名前が付けられる習慣ができていた。