冥界の遁走曲〜第二章(前編)〜-1
体がずっと疼いている。
魂が切望している。
死の世界に行きたいと狂望している。
でも、俺がそこで求めているものは何だ?
俺がそこで求められているのは一体何だ?
俺は何を望み、何を望まれているんだ?
俺は……行きたい。
俺は……生きたい。
第七部 「それからの二人」
とある学校の屋上。
神無月 闘夜はそこにいた。
沈みかけた夕日の景色を見に来たわけではない。
それでも、放課後に屋上に来る事は闘夜の日常の習慣となっていた。
この習慣が芽生えたのはつい一ヶ月前の事だ。
闘夜の『出会い』はまさしくここからであった。
そんな場所にどのような想いを持っているのか、それは闘夜にも分からない。
それはある種の期待であり、不安でもある。
出会った世界は闘夜の常識をはるかに覆していたからだ。
そしてその世界から来た少女もまた闘夜を驚かせた。
闘夜は忘れない。
自分に殺人を予告したときの冷たい表情を。
そして、自分と買い物をした時の暖かい表情を。
そして別れ際に見た悲しい表情は闘夜に再会をしきりに促していた。
だが、当の少女からは手紙の一枚すら来ない。
別れて一ヶ月も経つ今では闘夜も待つ事に飽きてしまった。
それでもここに来るのは未練があるからだろう。
……あいつはもう俺の事なんて忘れたのかな?
ついつい卑屈な考えに陥ってしまう。
それでも闘夜はこれからもずっと待つだろう。
卑屈になる事など、とうの昔に慣れてしまっている。
いや、昔ほど卑屈になる事などもうないだろう。
そんな事を考えているときでさえ、太陽はゆっくりと沈んでいく。
それがタイムリミットであるかのように闘夜は制カバンを片手で持ち上げて屋上を後にしようとした。
◎
闘夜の考えていた世界にいる闘夜が考えていた少女は深く考えていた。
「う〜ん……」
少女は眼前に広がっているノートを見てうなり声をあげている。
ガヴァメント(冥界政府)が冥界と言う世界を地図化すると中心より少し上になるように設置した『ガヴァメント本部』はK-13区域を余すことなく使っている場所だ。
周りには高さ30メートルもの高さを誇る壁、『トリメンダスの壁』が覆っていて、出入りするには東西南北に一つずつある巨大な門を通るしかない。
そして中にはあらゆる公共施設やガヴァメント関係者用の部屋が十二分に揃っている。
少女、一神 癒姫はそのガヴァメント本部の中の施設の一つ、図書館にいた。
机に座り、筆記用具を並べているものの、考えるだけで書こうともしていない。
とはいえ、並べられているノートには文字がびっしりと並べられている。
実はこのノートは彼女が一ヶ月前からある会議の為に用意したノートなのだ。
「ほら、癒姫。
うなってるだけじゃいい考えなんて出てこないわよ」
癒姫の向かい側の席で声を飛ばしたのは三神 楓だ。
実はこの二人、どちらも親が『死神』と言う偉大な地位を持っている。
その時に与えられる姓が一神、二神、三神、四神なのである。