MOTHER『彼女』-2
彼女の言葉はその違うところで 私の中にあった反抗の芽を摘み取り 絶対的にかなわないと自覚させた。
『主人の帰りも遅いから気にしないで居てくれていいのに』
最後まで心配そうに気遣ってくれる彼女に『すみませんでした』と一礼し玄関へ出た。
靴を履きながらふと視線に止まったもの。
下駄箱の上の家族写真―。
ドクン…
『あぁ これね この前の連休の時に家族で旅行に行った時に撮ったのよ。』
この前の連休… 彼と結ばれた次の休み…
ドクン…
『この人がうちの主人。気だけ若いけどあなたから見たらもう立派なおじさんかしらね』
『私 その愛するおじさんの子を 今 身籠ってるんです』
喉元まで出かかった言葉を胸に押し戻す。
ドクン…
『あなたが気を遣うような若い人はうちにはいないから いつでも気にせず遊びにきてね!』
『本当にご迷惑をおかけしました。』
彼女の言葉に返事もせず 目も合わさずに深く頭を下げた。
彼女の左手の薬指が見える。彼と同じ 永遠の―
ドクン…
180度向きを変え これ以上傷つけられないよう俯いて夢のような白い家を後にする。
淡い希望を持っていた私は突き付けられた現実に再び絶望に泣き崩れた。