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MOTHER 『僕』
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MOTHER『彼女』-1

『マーマー』
『はい はい あぁもうこんなに真っ黒になってー』
気付いたら私の足は彼の家へ出向いていた。
小さな庭付き一戸建の白い家。
嫌味でないセンスのいいガーデニングの施されたそこに『彼女』は居た。

『おなかすいたー』
『お夕飯までまだ時間あるからおやつにしようか!』『うん!おやつー♪』

絵に描いたような幸せってこーゆー感じなんだろうな。 綺麗で優しそうな人…彼に似た可愛い僕…
もっと早く彼に出会っていたら 今あそこで幸せそうに笑っているのは私だったのかもしれないのに…

瞬きを忘れるほどにその光景を見つめていた私の見開かれた眼は 変えられない現実をぐにゃりと歪ませ 頬をボロボロと伝った。

ドクン…

まだ目立たない腹の中で この子も共鳴しているのかな?

優しく愛しく腹を撫でる

ドクン…

急激な眩暈と吐き気に襲われ 思わず彼の家の門扉にもたれかかった。

『大丈夫?』
思わぬ方向から声をかけられ 顔色の悪い涙でボロボロになった顔をそちらに向ける。
『どうしたの?!具合が悪いの? 大変!良かったら中で休んで』

彼と彼女の生活している愛の巣へ…?

ドクン…
『だ 大丈夫です 帰れますから』
見たくない 知りたくないイヤダイヤダイヤダイヤダ『このままほっとけないわ。心配しないで。今私とこのコしかいないし。おばさんとって食べたりしないわよ』
向けられた優しい笑顔は(おばさんというより“綺麗なお姉さん”じゃん……)
朦朧とした意識の中 細くて白い彼女の腕に支えられ小綺麗なリビングのソファへ通された。

近づく意識のなか あの夜包まれた彼の香で目覚める。
『気が付いた?』
覗き込まれた彼女の顔はホッとしたような笑顔の天使のように見えた。

彼と…同じ匂い…

無理に起き上がろうとする私を彼女は慌てて制止し 温めておいてくれたホットミルクを代わりに差し出してくれる。
『お腹にもいいし 気持ちも落ち着くから。良かったら飲んで?』
屈まれた彼女の後ろに隠れるようにしていた『僕』も頭だけだし『ねーね だいじぶ?』 眉毛を八の字に下げて心配してくれている。
『私…私…』
どうしてこんなことになったんだろう。何故私は独りなんだろう。今まで燻っていた気持ちが涙と共にあふれ出て止まらない。
『どうしたの?泣かないで。ホラホラ 大丈夫だから。落ち着いて?ね?』
私を抱き締めて宥めてくれる彼女からは彼と同じ家の匂い。
『ごめんなさい… ごめんなさい…』
『気にしなくていいの!大丈夫だから。謝ることなんて何もないのよ。そんなに自分を責めちゃだめ』

彼女の言うところとは全く別のところで私は心から謝っていた。


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