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新しい君に
【その他 官能小説】

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新しい君に-3

(3)


 妙な心地だった。
もやもやとしたものがゆっくり胸や腹の中を動いている。……そんなわだかまりが生まれていた。
 ビールを2缶空け、飯も食べずに焼酎を飲んだ。ほどなく酔いが回った頭に三上純也の笑顔が現われた。

 心の揺らぎは情欲だった。『彼』のうなじを見ているうちに『女』に思えてきて股間が疼いた。
(あいつは、男だ……)
たとえ心が女であっても、着飾っても、体は男だ。たしかに出会った時は女として疑わなかった。だが、男の体なのだ。内面はどうであれ、ペニスが付いていて袋もあるのだろう。……俺にはそんな、
(趣味はない)
言いきれる。なのに、欲情が作動したのはなぜだ。……

 自分の中に気付かない嗜好が眠っていたのだろうか。……俺に起こった昂奮は女を感じたものなのか、三上純也の妖しさに乱れたのか。少なくとも初めに抱いた好奇心を超えた性的昂揚であったことは間違いなかった。

 翌日、俺は『彼女』の姿を求めた。周囲に目を配りながら歩いたことなどない。いつもよりゆっくり歩き、人の流れに目をやり、時に振り返った。俺の帰宅時間はほぼ決まっている。だから『彼女』も俺を見続けてくれたのだ。
 その日、出会うことはなかった。
(バイトの都合なのか……)
マンションを訪ねようとは思わなかった。会いたいと思っている自分がいる。だが、
(その趣味はない……)
さほど強いものではないが、心にへばりついたような頑なな想いとの葛藤があった。
 その想いが脆くも風に運ばれて消え去ったのは3日後のことだった。

 小刻みな靴音がすり抜けて振り向いた。
「あ……」
「会えた」
「バイト帰り?」
「はい。先日はすいませんでした」
俺の気持ちは温もりに包まれた感じだった。
「どこか、ファミレスで飯食おうか」
「……ええ……」
返事の間があって気付いた。
「人がいると気になる?」
「今頃、混んでるし……」
マスクを取るのがいやなのだ。
「じゃ、コンビニの弁当でいいか」
「はい。ビールとか焼酎、買ってあります」
並んで歩き出した俺はその時、ときめきを抱いていた。
(女だ……)
俺は三上純也を女として感じていた。

 ビールとコップをテーブル置いて、
「飲んでてください。失礼して着替えちゃう」
腰を落として衣装ケースから服を出す所作はほのかな色気さえ漂う。
 服を抱えて入ったのはトイレか。部屋にはドアは1つしかないからバスルームでもあるようだ。

 やがて現われた姿を見て、
(これは……)
思わず声を洩らしそうになった。美しかったのだ。
 ミニスカートから伸びた白い素足、胸元の大きく開いたシャツは首筋から肩のラインを見せて裸身を想像させた。
「スカート、似合うよ」
「そうですか?家でしか穿かないんです」
「なんで?もったいない。そんなきれいな脚してるのに」
「お尻がね……」
腰骨とくびれが女性とはちがう。だからスカートだとヒップが貧弱に見えてしまう。
「ごまかせないんです。ほんとは穿きたいんだけど……」
「痩せた女だっているんだから」
「骨盤がちがうでしょう。パンツならジャケットやパーカーで隠せるから……」
 腕を見せ、脚を伸ばして座った。
「脚と腕は毛がほとんどないんです。すべすべですよ」
「ほんとだ……」
「触っていいですよ」
脛に触れ、膝の上までさすった。
「気持ちいい……」
笑顔が消えかかった三上の目の周りにほんのり赤みがさしていた。

「友達なんかに何て呼ばれてるの?」
「純です」
「純か……『純子』でもいいくらいだ……」
「そうだったら嬉しい。……そう思ってくれます?」
「うん……純子って、呼ぶよ……」
俺は頷きながら奇妙な昂奮に見舞われていた。
 ミニスカートの奥には女の裂け目はない。それなのに触れている脚を女として感じていた。

「弁当食べようか」
混乱をきたしそうになって俺は手を離した。
「はい。……お味噌汁飲みます?」
「へえ、作るんだ」
「はい。……インスタントですぅ。ふふ」
俺たちは明るく笑い合った。 



 



 
 


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