ノウム原理教教祖、深野浄京-4
「あ…っと…」
言葉が見つからない。何のトリックも見つからないからだ。目の前で起きた信じられない光景に完全に動揺していた。
「マジで宙に浮けるの…?」
深野浄京は表情をピクリとも動かさずに答える。
「御覧の通りだ。」
「…だよね〜…」
そう答えるしかなかった。深野浄京は本当に宙を浮ける人間、そう認識するしかないようだ。なら他に何が出来るのが興味が湧いてきた。
「他に何が出来るの?」
「…あなたと握手が出来る。」
「あ、握手?だって特殊ガラスで仕切られてるんだよ!?どうやってするのよ??」
深野浄京は相変わらず無表情で言った。
「手を差し出したまえ。」
「うん…。」
若菜は握手をするように手を差し出した。深野は腕をまくり右手を握りしめ、額にピタリとつけ何やら念じ始めた。そして額から手を離して特殊ガラスの向こう側で握手するよう手を差し伸べ、ゆっくりと特殊ガラスに近づける。すると更に若菜をチビらせてしまいそうな程の超常現象を見せたのであった。
「えっ??えっ!?き、キャー!!」
何と深野浄京の手が特殊ガラスを通り抜け若菜の手を握って来たのであった。
「キャー!キャー!」
慌てて手を振り払い後退りし背中を壁につけ脅えていた。これには高城も看守も目が飛び出る程に驚いた。目を疑う。銃で撃っても割れない特殊ガラスを手が通り抜けているのだ。本来警戒しなければならない看守も呆然とその超常現象を見ている事しか出来なかった。
「手、手が…!あわわ…」
あのノウム原理教教祖深野浄京に触れてしまった若菜の動揺は想像以上に大きなものであった。そんな若菜を無表情で見ながら手を引っ込める。そして何事もなかったかのように落ち着き払って言った。
「敢えてやらないが、体ごとそちらに行く事も可能だ。しかしそれをしてしまったら刑務所の所員が色々と大変だろう。私から目が離せなくなる。私は手錠さえ外せる。ここから逃げだそうと思えばいつでも可能だ。しかし私はそれを望んでいない。なぜなら私は凶悪犯罪を犯した教団の教祖だからだ。全ての責任を取らなければならない。死刑であれ何であれ、罪を償うのが私の責任だ。その責務を全うしてこそ私についてきてくれた全ての信者への責任だと信じてる。私は刑務所から出たくはない。逆にお願い申し上げる。私をここから出さぬよう、守って欲しい。」
そんな深野浄京の姿を見て、若菜は彼が本当に凶悪な悪徳宗教団体の教祖なのか、疑問に思えて来たのであった。