2-5
ベッドサイドのライトの光に、煙がゆらゆらとなびきながら昇って行く。
結子は自分が吸っているタバコを富岡にも吸わせた。久し振りのタバコに、頭が少しばかりくらくらする。
「またスモーカーになったら君のせいだな」
「自己責任でしょ」
結子は短く笑う。さっき泣いたことを彼女は覚えているのだろうか。
「聞いていいか?」
「なに?」
「さっき、公園で泣いたよね。違うって言って。あれは?」
ああ、と言ってタバコを消した。ベッドを出るとキッチンからペットボトルの水を持って来て、富岡に渡した。
「ステーキハウスの店員いたでしょ?」
「ああ」
彼女を結子ちゃんと親しげに呼び、注文を聞くまでもなく把握していたTシャツ姿の男だ。美男子と言うわけでもないが、人の良さそうな笑顔だった。
「あの子同級生なの、小中のね。ショウちゃんて呼んでるんだ。ショウちゃんは高校に行かずに、しばらくはこの辺りで悪さしてたんだけど、なんとかまともになってあそこで働いてるの。私のこと好きだって高校の頃にコクられた。
だけど、ショウちゃんは幼馴染でさ、彼氏って感じじゃないのよ。いい子だし安心だし、暇な時は遊ぶけど彼とは寝れない」
ああやっていつも気を使うのよね、と言った。結子によれば、店長から言って出したワインもショウの気遣いなのだそうだ。ようは彼のおごりと言うことだ。
「みんな私がスティーブに捨てられたことを同情するの。ショウちゃんも、店の客もママも。私が傷ついてないって言えば言うほど、わかってるからって。
違うのよ。私は初めからわかってたし、スティーブとどうにかなりたいとも思ってなかった。たかが私一人が兵隊に捨てられたことを、みんなが同情するのが嫌なの。うんざりなのよ、何やっても筒抜けのこんな小さな街なんか。
だけど、私にはここしかない。ここしか知らないんだもんね。それがたまらなく嫌で。引越そうと何度も思ったけど、母はそばにいて欲しいって言うし」
富岡は背を向けて座る結子の背中をなでた。肌はひんやりとしていた。
「よくあることなんだから、ここじゃ」
「そうか。わかったよ」
結子はベッドにもぐりこむと富岡に抱きついた。エアコンが強かったのか、体はすっかり冷めている。
「富岡さんともそうよ。ちょっとセックスしたかっただけだから、ね?」
「それもわかった」
結子にキスしながら覆いかぶさり、二人は再び朝まで絡み合った。