1-4
そう言うとストローからアイスコーヒーを飲んだ。
「あなたは、それで満足してたんですか」
「満足もしてないけど、不満もないの。私はずっとここで育って、米兵に遊ばれて泣いてる日本の女をたくさん見て来たのよね。だから、本気になんてならないし寝たい時に寝る相手がいれば構わないから」
「ずいぶん冷めてるな」
風が結子の髪を乱した。沖の方を見ていた。
「何してたの?」
「え?」
「6時まで、何してたの?」
「ああ。駅前を歩いて、このショッピングセンターで映画を観てましたよ。それからずっとここで軍艦を見てました。いい景色ですね」
「うん、そうね。見飽きたけどね、私は。すぐそこからアメリカなのよね」
そうなのだ。
現に容疑者はベースと言うアメリカへ逃げ込み、情報は一切遮断されている。アメリカ側で起訴されるまでは、日本側は指一本触れることはできない。最悪の場合「退役」と言う形で送還することもあり得る。
いや、むしろ被害者が子供だと言うことでうやむやにする可能性が高い。
「彼には彼女がいて、あなたもいる。つまり、その。そう言う欲求は充分満たされていたと思うんだ。それなのに、あんな子供に手を出すだろうか?彼の性癖に少女趣味はあった?」
結子はマルボロを出すと火をつけた。が、風が邪魔してなかなか付かない。富岡は腕を伸ばし、手のひらで囲いを作ってやった。女性にしては骨ばった指だった。
「私みたいなおばさんも抱くから、守備範囲は広いんじゃないの?本命は25だとか言ってたわ。彼はまだまだ子供だし、下っ端よ。いじめって、どこにもあるでしょ?ストレスがあったんじゃない?」
「そんな話をしてた?」
「アメリカに帰りたいとは言ってたわね。日本は便利だけど、やっぱり違うって」
軽くキーボードを操る富岡を見て、結子はすごいと言った。
「は?」
「すごいなって。話しながらそんなに早く打てちゃうのね」
「これが商売ですからね」
「私、ダメ。携帯もいまだにガラケーなの」
「失礼ですが、倉田さんはいくつですか?」
「32。年下と遊んでる場合じゃないわね」
初めてくすっと笑った。