第四章-3
(泉美様、早く下りてくれないかなあ)
その次の南京東路駅でようやく泉美は下りた。ほっとひと息。私もついて下りた。そして泉美が多機能トイレに入ったので私もついて入った。するといきなり、
パシーン!
私は頬に思い切りビンタを食らった。
「痛い! 何をなさるんですか」
「私の命令どおりにしなかったお仕置きよ」
「したじゃないですか。ちゃんと電車の中で屁をこいて、そのままその場に立っていたじゃないですか」
「口答えするな。私は平然と立っていろと言ったんだ。それを何だ、お前は。真っ赤になって下を向いて、肩をわなわなと震わせて。あれが平然か?」
「だって、あれは仕方ないですよ。どんなに努力しても、誰だってああなっちゃいますよ」
「だめだ。もう一度やる。そこに四つ這いになりな」
「ええっ? まだやるんですか?」
「お前がきちんとできるまで何回でもやる。今度は十号線で虹橋方面に向かう」
十号線も二号線に次いでよく混む路線だ。
「わかりました」
私は最前と同じように四つ這いになり、泉美は五本の浣腸を入れた。そして十号線の虹橋方面行きの電車に乗る。今度は豫園と老西門の間で臭い屁をこいた。また乗客たちの唖然としたような嘲笑したような反応。
「あの子、さっきも別の電車で屁をこいてたよ」
そんな声さえ聞こえてきそうだった。さっきの電車と同じ乗客はまずいないだろうに。
(私が空気浣腸されてること、誰も知らないのよねえ)
私は恥ずかしくてたまらなかったが、今回は最大限の努力で平然を装った。しかし顔から大粒の汗が吹き出し、たらたらと顔面を流れた。するとすぐ前に立っていた大学生くらいの女の人が、バッグからティッシュを取り出し、一枚抜き出して私に差し出した。
「お腹壊してるの? これで汗でも拭いたら?」
「はい、ありがとうございます」
(こんなことをしたら、また泉美様に叱られるだろうなあ)
とは思いつつも、私はこの親切な人の厚意を無にすることはできず、ティッシュを受け取って顔の汗を拭いた。
泉美は交通大学駅で電車を下り、私もついて下りた。そしてまた多機能トイレに入る。私は再び頬ビンタを覚悟した。しかし泉美の反応は違った。
「満点とは言えないけど、今回は合格ね。ティッシュをもらうという予期せぬハプニングもあったことだし。まあ、今日はこのくらいにしておこう」
「ありがとうございます、泉美様」
(よかった!)
私は深々と頭を下げた。そして交通大学駅から十一号線の電車に乗り、私は次の徐家滙で下りて一号線に乗り換え、泉美はそのまま十一号線で三林の自宅へと帰って行った。