幕開け-7
「!?」
若菜が目にしたものは想像を絶する凄まじい光景であった。皮膚が焼け溶け赤黒く爛れた物体が2つ、床に倒れていた。それが何なのかすぐに分かった。
「きゃー!!」
「あ…」
さとみは絶叫し結衣は言葉さえ出なかった。目の前の光景はホラー映画ではない。焼け焦げた人間の亡骸に2人は腰が抜け床にへたり落ちた。
「こ、これじゃ身元が分からないわね…」
若菜も本当は目を覆いたくなる焼死体。足は竦み今にも2人と同様に腰が抜けそうだ。足が前に動かない。認めたくないが恐怖感に全身を襲われていた。しかしまるで崖の上を慎重に恐怖感と戦いながら歩くかのように少しずつ足を前に進めた。
近くで見ると更に気分が悪くなる。気を許すと吐きそうだ。あまりにも生々しく直視出来ない。以前に湯島武史一家が惨殺された時よりも衝撃的な惨状だ。刑事である自分が恨めしく感じた。しかし最後は刑事としての責任に背中を押され目の前の真実に迫ろうとする。
「この焼死体は…供述にあったお客と真田竜彦…?」
着衣は焼け焦げ、そして原型を止めていない肉体からは判別出来ない。
「結衣ちゃん、鑑識呼んできて!」
「はい!」
結衣はいち早くこの現場から離れたかった。すぐさま立ち上がり鑑識を呼びに行くとさとみも立ち上がり後を追おうとする。
「さとみちゃんはいいのっ!」
ビクッとして立ち止まり、今にも泣きそうな恨めしそうな顔で若菜を見る。
「ここにいたくないですぅ…」
殆ど半べそ状態だ。
「あんたも刑事でしょ?しっかりなさい!」
「無理ですよぅ、私…。上原さんみたいに神経図太くないし…」
「(こ、こいつ…どさくさ紛れに…!)いいからここにいなさい!」
「ふ、ふぁい…」
見るからに嫌々と立ち竦んでいた。若菜は再び視線を死体に向ける。神経の図太さを生かし少し落ちついて改めて現場を見渡す。するとある事に気付く。
「ん?おかしいわね…」
その言葉にさとみが不機嫌そうに言った。
「何がですか?」
「店内は爆発があって滅茶苦茶で部屋中ススだらけだったでしょ?でも通って来た通用口爆発の衝撃でヒビや壁が崩れてはいたもののススなんてなかった。でもここは見ての通り燃えた形跡がある。ここまで火が来たのなら店内から通用口、そしてここまで壁とかススだらけのはずでしょ?」
「火の玉が飛んできたんじゃないですか?あと花火みたいにパーンって。」
「飛び火が壁や天井に触れずに角を曲がってここに?あり得ないでしょ」
「じゃあ2人はあっちで火が体についてここまで逃げてきて力尽きたんじゃないですか??」
「…」
自分では思いつかなかった推理をサラッとされて少し悔しくて黙り込んだ若菜。その可能性を否定する根拠が思い付かず、更に悔しくなった。