秀吉の世継ぎ-6
9.
ギシギシ〜ギシギシ〜〜
「なにやら、今夜は天井がよう軋るなあ」
「上には、淀のお方様と、大野冶長様のお部屋がございますれば」
「なるほど、なるほど、仲睦まじくて、お目出度いことでござるな」
夜陰に乗じて大坂湾を脱出し、紀淡海峡をすり抜け、紀伊水道を通って太平洋に漕ぎ出した軍用船。今夜は波も静かで、ハタハタと帆柱を叩く帆の音が、甲板を流れていく。
雲ひとつ無い漆黒の天空には、真ん丸い月がぽっかりと浮いている。
「茶々、疲れたであろう。もうここまでくれば安泰じゃ、心を安うしてよいぞ」
「冶長のお陰で、こうして親子が生きて、一つになれました」
「茶々は、幼少より生死の狭間を生き抜いてこられた。これからは、冶長が命に代えてお守りするゆえ、安堵して過ごすのじゃ」
「南蛮式の褥はいかがじゃ?」
「少々狭いが、冶長と一緒なれば、天国にも勝る思いじゃ」
お城の大奥であれば、世の贅を尽くした調度品に囲まれ、褥もさながら雲の上で寛ぐ様であろうが、実用一点張りの軍用船では、根太の上に板を張っただけの床。急遽取り寄せた南蛮渡りのベッドも、立て付けが悪く、身じろぎをするだけでキシキシと音を立てる。
「ははは〜よう言うた、そなたは今や晴れて私の妻じゃ。ルソンまでは長旅ゆえ、仲睦まじう過ごしましょうぞ」
ベッドに横になり休んでいる茶々は、些か居心地が悪いと見えて、寝装の肌をはだけて、片膝を立てている。
記録によると、茶々は身長170センチ、女性としては大柄で中々のグラマーであったようで。
ベッドの上で、片膝の乱れた裾の奥には、白雪のような腿が覗いている。
息も付かずに危急を乗り越えて、ようやく身体を休めて茶々を見舞った冶長の目が、腿の奥に釘付けとなった。
「茶々、私もそこで一休みさせてくれぬか」
言うや否や、ベッドに上がり、茶々をかき抱いて口を吸う。