カピバラと俺-5
茜の言葉は予想通りだった。
その日のうちに別れるなんて、あの男、なかなか仕事が早いじゃないか。
ただ、気になるのはその理由。
茜を傷つけないように終わらせろ、なんて言ってみたものの、茜は和史くんが大好きなわけだし、いきなり別れを告げられたら、何をどうしたって悲しいに決まってる。
アイツを思ってハラハラと涙を零している茜を目の前にすると、やはり俺のしたことは間違いだったのではないか、と胸がズキッと痛んだ。
だけど、それを悟られてはいけない。
「わ、別れたって……」
すると茜は急にこちらを睨むから、知らんふりがバレたのかと思わず背中に冷たいものを感じた。
もしや、あのバカは昼間の出来事をバカ正直に言ったのか!?
そんな不安がよぎり、思わずゴクリと生唾を飲み込む。
玄関は暖房もつけてなくてヒンヤリと肌寒いのに、身体から汗がじっとり滲んでくる。
挙動不審に目が泳ぐ俺と、まっすぐに俺を睨みつける茜。
まともに彼女の目が見れなかった俺は、血が滲みそうになるほど噛み締めている茜の下唇を黙って見つめていた。
やがて、噛み締められていた唇が、プルンと元の形に戻ったかと思うと、
「……和史、ホモだったの」
と、普段より1オクターブくらい低い声でボソッと呟いた。
「はあ!?」
対して俺は、普段より1オクターブくらい高い声が出てしまった。
素で驚いてしまったからだ。
……ホモって、あのホモってことだよな?
途端に目が点になって固まる俺。
すると茜はそんな俺の肩をガシッと掴んだかと思うと、勢い良く俺の身体を怒りに任せて前後に揺するのだった。
「和史、ホモな上にめちゃくちゃ変態だったの! 実は男にしか興味がなくて、しかも中学生くらいの、童貞臭い若い男の子が一番好みだって、カミングアウトしてきたのよ!!」
「え、え、マ、マジで?」
脳震盪が起きそうなくらい揺さぶられながら、かろうじて出た言葉は、紛れもなく本心から湧き上がった疑問。
だって、和史くんがホモでロリコン……所謂“ショタ”だなんて、何をどうすれば話がそんな飛躍するんだ?
呆然と茜を見れば、怒りで鼻をプクッと膨らませていた。