カピバラの彼氏-4
その時、突然後ろのテーブル席からギャハハと太い笑い声が聞こえてきた。
びっくりしたように俺と鈴木が後ろを振り返ると、若い男二人がテーブル席で雑談をしている所だった。
最初は奴らの存在が気にならなかったくらいだったから、おそらく話に夢中になる内に声のトーンが大きくなってしまったのだろう。
ラフなグレーのパーカーを着た男と、ゆったりした紺色のカーディガンを着ている男。
パーカー男はこちらに背を向けているけど、カーディガン男の顔の感じからして、年頃は俺達と同じくらいに見えた。
昼食でも夕食でもない中途半端な時間帯のせいか、客もほとんどいない店内に響き渡る男の声に、自然と顔がしかめ面になる。
高校生じゃあるまいし、バカじゃねえの。
こうも後ろの奴らがうるさいと、なんだか気分も萎えてくる。
それは鈴木も同じだったようで、
「そろそろカラオケ行くか」
と、スマホをデニムの尻のポケットに入れるのだった。
言われるままに、俺も店を出る準備をしようとしていると、
「あー、やっと彼女に会えるー。ヤれるー」
と、パーカー男が、大きく伸びをしながら笑った。
古今東西、いつでも話が盛り上がるのは異性の話か。
だけど、今の俺にはそういうカップルののろけ話は、ノイズのごとく耳触りでしかない。
けっ、どいつもこいつも色恋ごときに浮かれやがって。
無意識のうちに眉間にまた力が入る。
聞きたくないのに、よく通る声のせいか、パーカー男の背中越しから会話が聞こえてきて、
「遠距離ってそういうのが不便だよなー」
と、カーディガンの男。
ほう、パーカーの男は遠距離恋愛をしているのか、と思えば、
「ま、だからセフレ作ってたんだけど」
と、ガハハと笑うパーカーの男。
そんなやり取りに、俺も鈴木もさらに苦々しい顔つきになった。
ただののろけでもイラつくってのに、さらにはセフレとか。
一見、俺達と同じ平凡タイプな奴らからそういう言葉が出てくると、嫌悪感は倍増だ。
心なしか、カウンター越しの店員の女の子の顔も、引きつった顔で、俺たちが食べ終わった食器を下げていた。
せっかく鈴木と楽しく遊んでいたのに、なんだか気持ちが一気に冷めた。
あー、早くこの場から離れよう。