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やっぱりそこにある愛
【コメディ 恋愛小説】

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カピバラの彼氏-5

ガタッと椅子から降りた所で、カーディガンの男が、


「しっかし、セフレとは言え、あんなブスとよくできるよなー、すげえよ和史は」


と、言うのが聞こえ、思わず身体が強張ってしまった。


カズフミ……?


焼肉屋で聞いた、茜の彼氏と同じ名前に、一瞬背中が粟立った。


いや、まさかな。


だって、茜はちゃんと彼氏と付き合ってるって言ってたし……、それに和史なんて名前、結構ありふれてる。


ここにいる和史は、茜の彼氏の和史とは違う男なんだ。


チラリとパーカー男の方を見やるけど、やっぱりこちらに背を向けて座っているので顔がわからない。


いやいや、仮に顔が見えたって、和史くんの顔なんざ俺は覚えちゃいないじゃないか。


茜のスマホの待受の、目が細くて唇も薄い、薄顔の和史くんの顔なんて。


「元気、どうした?」


すでに会計を済ましてくれていた鈴木が、キョトンとした顔でこちらを覗き込んでいた。


レジでもたつくのが嫌な俺たちは、とりあえずどちらかが先に勘定して、あとで精算するスタイルなのだ。


「あ、何でもない……」


鈴木の声で、ハッと自分の世界に戻ってきたような気がした俺は、幾分冷静さを取り戻していた。


鈴木も奴らの会話の内容に、露骨に嫌な顔をしていたけれど、所詮は他人事だったようで、今はいつもの飄々とした顔をしている。


そうだ、他人の話にいちいち俺が気を揉む必要なんて一切ない。


仮に、ここにいる和史くんが茜の彼氏だったとしても、俺には関係ない。


そうだ、関係ない。


そう言い聞かせながら奴らの後ろを通り過ぎようとした時、


「いや、女であればデキるもんよ? ま、茜の顔見てると萎えるから、いつもバックかあとは顔に枕押さえつけながらヤッてればいいんだし。アイツ、声だけは可愛いから、他の可愛い女を想像しながらヤれば、結構いい感じだよ」


と、またしても聞き慣れた名前が奴らの会話から飛び出して来て、足が止まった。


あ、茜って……。


急に胃がヒュウッと縮こまる感覚。血の気が引くってこういう感じなのか。


フッと足下がすくわれたようにもつれてしまった足を、なんとか踏ん張ることだけで精一杯だった。



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