カピバラの恋-6
「正直、この合コンはハズレだって思ってたんだよね」
伏し目がちなその視線の先は、スマホの画面。
愛おしそうにそれを眺める茜の横顔に、心臓が早鐘を鳴らす。
「…………」
「いつもならハズレの合コンは、すぐ食べる方に回ることにしてたんだけど、ふと元気のこないだの言葉を思い出してさ」
「俺の言葉?」
「そそそ、覚えてないかな。こないだ最後に愚痴りに来た時、山田さんってバツイチの男もダメだった時の」
「ああ」
俺が何て言ったかは覚えてないけど、山田さんがイケメンだったのは覚えていた。
「あの時、元気は『身の程を知れ』って言ったじゃない? あれを思い出して、外見だけで恋愛対象かどうかを判断するのを止めて、とりあえずいろんな男の子と話をしてみようって思ったわけよ」
「…………」
「そしたらさ、たまたま隣に座ってたのが和史だったのね。話してみると、結構盛り上がっちゃって! 和史の趣味がカラオケで、長渕剛が大好きなんだって。あたしもアンタのせいで長渕にはすごく詳しくなったじゃない? じゃあ、次カラオケ一緒に行こうよってことになって、それでどんどん仲良くなったんだ。
あたしが長渕に詳しくなかったら、きっと発展しなかったと思うから、それだけは元気に感謝だね」
茜が一生懸命話せば話すほど、声が遠く感じた。
昔から大好きだった長渕剛は、茜と一緒にいる時はお構いなしにCDをかけるし、茜の家に行っても、勝手にコンポにCDを入れて聴いていたりして。
最初は嫌がっていた茜だったけど、知らず知らずのうちに茜も全ての曲を完全に覚えるくらいになった。
その茜が、長渕に詳しくてよかったなんて俺に礼を言っているようなのだが、何だろう、身体がソワソワ落ち着かなかった。
食べようと思っていたタン塩は、いまだ俺のライスの上にポツンと置かれたまま。
さらに鉄板の上で焼かれていた上ハラミやカルビ、ミノなんかもいつの間にか縮んで黒くなっていた。
茜は彼氏の話に夢中で。俺はそんな茜の話が何故か上手に聞けなくて。
ただ、俺の心がどす黒くなっていくように、肉達がチリチリと焦げていくのを眺めるだけだった。