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やっぱりそこにある愛
【コメディ 恋愛小説】

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カピバラの彼氏-1




   ◇   ◇   ◇



「おーい、久しぶりだってのに、何機嫌悪いんだよ。元気らしくない」


目の前を手のひらがヒラヒラ動いて我に返る。


「あ、悪ぃ」


また眉間にシワが入っていたか。


慌てて眉間のシワを伸ばすように指でなぞる俺を、隣で不思議そうに眺めるのは、友人の鈴木だ。


目の前には、空になった丼。


久しぶりに会った俺達は学生時代からの御用達・吉野家で腹ごしらえしてから、カラオケに向かう所だった。


これもまた、俺達の学生時代からのお決まりコース。


「しかし、しばらく会ってないってのに、お前は変わらないね」


鈴木は、爪楊枝を歯に咥えながら、まんじりと俺を眺めて呟く。


学生時代は色づいた銀杏の葉っぱ並に明るい髪の色をしていた鈴木だったが、今はすっかり好青年風のサラリーマンになってしまっていて。


そんな奴からしてみれば、確かに俺は何も変わらない。


外見も中身も。


きっと何も成長していないからなんだろうなと思うと、何だか情けなく思えて、苦笑いで応えるしかなかった。


「久しぶりって、どんくらいだっけ?」


「えー、かれこれ半年は会ってねえんじゃねえ? ホラ、オレがエロDVDお前にあげたじゃん、最後に会ったのはそん時だよ」


「そうか、そんなに会ってなかったか」


「お前、ちゃんとあのDVD観てる? アレ、オレのお気に入りだったんだからな。大事にしてくれよ」


長い脚を組んでケタケタと笑う鈴木。そう言えば彼女にエロDVDの存在を知られて処分を命じられたんだっけ。


とりあえずクローゼットにぶっこんでいたのを、茜が拾い上げる姿が一瞬だけ脳裏を過ぎった。


あの時は、茜も変わってなかったのにな。


「……元気?」


そんな俺を、またも不思議そうに覗き込んでくる鈴木に、心の中を見透かされたような気がした俺は、


「俺は、もっとスレンダーな女の方が好きなんだ」


と、素っ気なく言って、慌てて目を背けた。


ちくしょう、なんであのカピバラのことばかり考えちまうんだ。


茜と一緒に焼き肉を食べたあの日以来、彼女からの電話もメールもパッタリ止んだ。


今までだったら毎週末は必ず俺んとこに来て、実らない婚活の愚痴をさんざんこぼしていたくせに。


彼氏が出来たらすっかり音沙汰なしになってしまって、ようやくアイツの子守から解放されたのは、むしろ喜ばしいことなのに、イライラは日に日に募るばかりであった。




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