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やっぱりそこにある愛
【コメディ 恋愛小説】

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カピバラの恋-5

顔を上げれば、茜がヒヒヒと歯を見せながら、少しはにかんでいた。


どうやら、俺が苛立っているのすら全く気付いていないようだ。


「和史……?」


「そうそう、さっき電話でチラッと話した、あたしの彼氏!!」


ようやく本題に入れたと言わんばかりに、茜は箸を乱暴に皿の上に置くと、テーブルの隅に置いていたスマホに手を伸ばした。


スイ、と画面を指で一なぞりしてから、彼女は水戸黄門のように画面をこちらに向けた。


「ひかえおろー! こちらがあたしの彼氏の竹田和史くんなのだー!!」


得意気に歯を見せて笑う茜だけど、ほんのり頬が赤くなっていた。


おそらく、最初に頼んだビールのせい、ではない。


口に運ぶつもりだった牛タンが、俺の白飯にポタリと落ちる。


なんでだろう、俺以外の男となんてまるで接点のなかった茜が、その画面では顔と顔を寄せ合って屈託なく笑っていて。


それを見た瞬間、何も言えずに固まるしかできなかったのだ。


「ちょっとー、なんとか言いなさいよ」


目の前で茜の手のひらが左右にヒラヒラ動かされたことで、ハッと我に返る。


「あ、ああ、悪ぃ」


「もー、どうせ嘘だって思ってたんでしょ!?」


むくれながらも、前髪を流す茜。恥ずかしい時に前髪を触るのは茜の癖なのだ。


おいおい、俺の前でゲップをしても、屁をこいても前髪なんて触らなかったじゃねーか。


そんな男前な茜が、スマホの画面を嬉しそうに眺める姿は、どう見ても恋する乙女そのもので。


不覚にも、初めてみるそんな茜の横顔に、思わず喉を鳴らしてしまった。


「出会いはね、職場の後輩が幹事してくれた合コンなの。後輩は、『あんまりかっこいい人はいないから期待しないで下さいね』なんて言ってたけど」


嬉しそうに目を細めて画面を見つめる茜。その視線の先の和史くんとやらの顔は、瞬時に脳裏から離れなくなってしまった。


確かに、かっこいいってタイプじゃない。


細い目に、薄い唇、典型的な薄顔でいわゆるフツメンって奴なのだろうが、面食いの茜がこういう普通タイプの男を選んだっていうのが、やけにリアリティがあり、一瞬目の前がクラクラと歪んだような気がした。




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