カピバラの来襲-6
◇ ◇ ◇
「元気ー、お風呂入るわ」
ラピュタもクライマックスに差し掛かった辺りで、茜が突然ソファーから立ち上がったかと思うと、おもむろにクローゼットをガチャリと開けた。
おいおい、ラピュタにたどり着いて、一番盛り上がる所だろ!? 何風呂入ろうとしてんの。
「お前、もうすぐ“バルス”だぞ」
ラピュタの見せ所、パズーとシータが滅びの呪文を唱える所は何度見てもテンションが上がるってのに、
「だって、何回も観てるから別に観なくてもいいもん」
と、しらけたことを吐き捨て、勝手知ったる彼女は、手際よく上下のスウェットを取り出した。
毛玉でいっぱいのグレーのそれは、いつの間にか茜専用となっていて。
くたびれたスウェットを、当たり前のように胸に抱える茜を見てると、ちょっぴり同棲してるような感覚に陥る。
けれど。
「んじゃ、バスタオルも借りるよん……っと」
茜がクローゼットからバスタオルを取り出したはずみで、何か固いものがフローリングに落ちた音が響いた。
「あ」
すっかり忘れてた、エロDVD。友達の鈴木が、彼女に見つかって怒られたからと、俺にくれた代物だった。
茜はそれを拾いあげると、ケースのパッケージをまんじりと眺めつつ、
「あたしはもっとスレンダーな女の方が好きだけど」
なんて言って、俺にケースを渡して、鼻歌混じりにバスルームに向かうのであった。
「…………」
パッケージを見れば、Gカップを売りにしたダイナマイトバディのAV女優が裸でニッコリ微笑んでいる。
エロDVDを見つけても、全く動じない茜の表情を思い出す。
普通の女なら、きっと、こういう場面なら恥ずかしがったり、嫌がったりするんだろうな。
それどころかAV女優の批評までするなんて……。
こんな風に平気で若い男の部屋に泊まりに来て、エロDVDを見つけても全く動じない、そんな茜だから、男と女の関係になるのは到底考えられない。
茜は、俺にとっては、男友達みたいな感覚なのだ、今までも、そしてこれからも。
だから。
パタンとバスルームのドアが閉まる音を聞いてから俺はボソッと呟く。
「アイツ、絶対ちんこついてるよな」
一方、テレビの中ではパズーとシータが「バルス!」と叫んでいた。