再会-8
カツ丼を食べ終わった若菜は何の前触れもなく急に立ち上がった。
「ん?どうした??」
若菜を見上げると何とも言えないような微妙な顔をしていた。そしてまさかの有り得ない言葉を聞く事になる。
「ウ、ウンコ…」
喜多は耳を疑った。
「はっ…??」
「ゴメン、ちょっとウンコしてくる…」
「あ、ああ…」
喜多は唖然として若菜の後ろ姿を見つめていた。
(な、何なんだよあの女は…!?いい歳したしかもいい女がウンコとか言うか普通…!?)
全く不思議な女だ、そう思った所に店主の澤口が来た。
「面白いよな、若ちゃんは。」
「面白いって言うか、変な女っすよね。」
「まぁ天真爛漫って言うか、ね?常連ですか?」
「若ちゃんのお父さんは良く来てたね。さっきも言った通り若ちゃんが初めて来たのは皆川静香ちゃんて言う先輩刑事と一緒に来た時で、その静香ちゃんは若ちゃんのお父さんに連れられて良く来てたもんだ。始めは若ちゃんがお父さんの娘さんだとは知らなくてね。初めてそれを知った時は目頭が熱くなったよ。それ以来ここに来るとお父さんに会えるような気がしてって言ってね、こっちも嬉しくなるよね。」
喜多は複雑な表情を浮かべた。
「彼女にとってそんな思い入れのある所にどうして俺なんかを連れて来たんだろう…」
そう言った喜多を見て澤口が驚くべき名前を口にした。
「R4…高田道彦、喜多和典、徳山大二郎、中西淳也、そして高田泰明、高田瑞穂…、田口徹」
「えっ…」
言葉を失う喜多。どうして蕎麦屋の店主がそれらの名前を知っていたのかが分からない。ただ澤口の顔を見上げていた。
「若ちゃんは静香ちゃんが亡くなってから暫くして、その人らの写真を盤若のような顔で見つめながら名前をブツブツと呟いてたんだよ。あの憎しみのオーラはハンパじゃなかった。あれは警察官の目ではない。殺人者の目だった。まさか本当にあれだけの復讐をする事になろうとは思いもしなかった。きっと誰が止めても無駄だっただろうな。君はその中の喜多和典さんだよね?」
自分を知っていた事に驚いた。
「あれ程憎んでいた人間を自分の大切な場所に連れて来るはずがない。俺はいつも若ちゃんが睨みつけてた写真や口にする名前で、その写真の人間が誰なのか覚えてしまっタンだよ。だからさっき若ちゃんが君を連れて来た時には正直驚いたよ。でもな、連れて来たって事は君の事を受け入れた証拠だろ?だから俺はきっと君は刑務所に入って心を入れ替えたんだなと理解したんだよ。若ちゃんは君をもう恨んではいないさ。ここに君を連れて来たって事はそう言う事だから安心しなって。」
「…そうなんですかね…。」
「ああ。」
喜多の強張った顔がようやく緩んだような気がしたところで若菜がスッキリした顔をして戻って来た。