再会-6
若菜が喜多を連れて来たのは蕎麦屋であった。若菜のイメージからはかけ離れた選択に喜多は驚いた。
「てっきりお洒落な所に連れて行かれるのかと思ったよ。」
「こっちの方が落ち着くでしょ?私、蕎麦屋のカツ丼が大好きなの。でも若い子らを連れて来ると絶対オヤジ臭いって言われるのは分かってるから来ないの。一人では良く来るんだけどね。」
「確かにオヤジ臭いな…。」
「オヤジにオヤジって言われたくないんですけど〜。」
そう言いながら中に入る。すると店主が若菜を見て声をかける。
「おっ、若ちゃん久しぶりだね!!」
「こんにちはおじちゃん!中々これでも忙しくてね〜。」
頭をかきながら席につく。
「本当に良く来るみたいだな。」
「まぁね。」
水を持って来ながら会話が聞こえた店主の澤口良雄は言った。
「親子代々だもんな。亡くなった静香ちゃんを連れて良くお父さんが来てたのが懐かしいよ。お父さんが亡くなった後は静香ちゃんが若ちゃんを連れて来てな。」
「…」
喜多の胸中は複雑であった。澤口は自分の事を知らないであろうから余計な事は言わずにいた。
「若ちゃんは食べ方がお父さんそっくりだからな。」
「そう?私はあまりお父さんとご飯食べたりできなかったから、ここに来るとお父さんに会えるような気がして嬉しいのよね〜。」
「きっと喜んでるよ、今の若ちゃん見ればね。」
「だといいけどなぁ。」
若菜は不思議な女だ。今までとはまた趣の違う顔情を浮かべている。警察官ではない、まるで家で寛いでいる時のような表情に心が和む。
「そんな大事な場所に俺を連れて来てよかったのか?」
若菜は喜多を見て穏やかに笑う。
「うん♪一人じゃ淋しいしね。」
「そっか…。ありがとうな…」
「えっ?今何て言ったの??」
「ん?な、何も言ってねーよ。」
「嘘!ありがとうって言ったじゃん!!」
「言ってねーし!」
「言ったじゃん!」
「お、覚えてねーよ!」
喜多はニヤニヤ見つめてくる若菜の視線に絶えきれずに思わず顔を背けた。
「はいお待ち!!」
カツ丼二つが運ばれてきた。確かに美味そうだ。しかも涎を垂らしそうな程にカツ丼を見つめる若菜を見ると自然と笑みが零れる。
「いっただきまーす!!」
まるで男のような食べっぷりに若菜の父の食べ方も想像出来る。喜多は久しぶりにこんな穏やかな気持ちで食事が出来る事に対して若菜に感謝したのであった。