窓-5
「沙保は子ども欲しいって思う?」
「子ども? そうだなぁ……いつかは欲しいなって思うけど、今はまだ想像できないや」
「そっかあ。僕は子どもはいなくてもいいかなとも思ってるよ。授かりものだから僕たちの間に来てくれたらもちろんうんでもらいたいけど、でもできればしばらくは沙保とふたりだけがいいかなぁ」
「そっかあ、わかった」
不思議な気持ち。
こんなふうに、ふたりの子どもの話をするなんて。
ほんの一年前は知らないもの同士だったわたしたちが、今はお互いをこんなにも近しく感じている。
縁って不思議だなあ。
「わたしたちふたりの子どもって、どんな子になるんだろうね?」
「きっと沙保に似て、可愛くて優しい子になるよ」
「わたしよりヒロキくんに似ないと可愛くならないかも……」
「沙保は可愛いよ」
「……やだな、照れる」
「照れることないよ。ほんとうのことだしね。沙保は可愛いよ。真っ直ぐで優しくて、僕の理想のひとだよ」
「そんな、褒めすぎだよ」
「ほんとうのことだからね」
雅也と別れたばかりの頃のわたしは、まさか自分がこんなふうに笑っているところなんて想像もつかなかった。
また恋をして──それも、飛びきり素敵な、天使みたいに可愛い男の子と!──未来の約束まで交わしている。
大好きなお菓子を頬張ったときのように、美味しくて甘くて幸福で、そしてその味がいつまでも続けばいいのにって感じるような……ふわふわした気持ち。
この気持ちを、ヒロキくんも感じてくれていたらいいな。
「ちょっと歩くけど、新しくできたショッピングモールに行こうか」
「うん、わたしも行ってみたいって思っていたの。今の季節、歩くのも気持ちがいいし散歩がてらのんびり歩いていこう」
五月の昼下がり。
近くの公園を横切って、手を繋いでのんびりと歩く。
子どもたちの声が聞こえる。キャッチボールをする親子が目に入った。
他人の目から見たわたしたちは、どんな関係に見えるのだろう。夫婦に──、見えるかしら。
「風が吹くとすごく気持ちいいね」
「うん。木のざわめく音とか、背中に当たる陽とか、ほんと五月らしくて爽やかで気分がいい」
ヒロキくんが猫みたいに目を細めて言った。
その顔は、紛れもなく、愛されていることを知っている顔だと思った。ヒロキくんの育ちの良さが表情に現れている。
このひととなら、きっとわたしは穏やかな家庭を築くことができる。予感のようなものを感じた。
胸がときめく。
わたしはきっと、これから先もずっと、そして何度でもヒロキくんに惚れ直してしまう。そんな気がした。