第0章 FROM LADY GUN-7
(しまったぁ…、石黒さんにしとけば良かった〜!人選ミスしたわ…。ナカガッキーは笑うと可愛いけど何か真面目っぽいもんなぁ。冗談が通じないタイプなんだわ、見た目通り…)
愛嬌がありすぎて小悪魔的な容姿の石黒さとみだとキュンキュンしてしまいそうで避けた判断のミスを本気で悔いた若菜。俯いたまま固まっていた。
机に戻りイライラが収まって来た結衣は、冷静になると生きた伝説である若菜に何ていう態度を取ってしまったのだろうと自責の念にかられて俯いていた。お互いにダメージを食らったかのように落ち込む二人は奇妙であった。しかし若さであろうか、思い切りのいいのは結衣であった。結衣は急に立ち上がり、再びツカツカと姿勢の良い歩行で若菜の前に立った。全員が注目した。
「室長のおっしゃる通り、私もそうは思っておりました。ただ、あのような発言は上司批判ともとられ兼ねないので控えた方がいいと思います。」
「ご、ごめんなさい…」
真面目だ…クソ真面目だ…、若菜はそう思った。
「私の方こそ失礼かつ生意気な事を口にして申し訳ありませんでした。」
深々と頭を下げ自分の机に戻った結衣はスッキリしたような表情を浮かべていた。
(でも似てるのは認めてくれたし♪)
若菜は若菜でそれが嬉しかった。表情は穏やかになり、パソコンを打つ指が軽やかになったような気がする。
(気が合いそうだな、あの二人…。)
課内の署員の大半はそう思ったのであった。
(25歳かぁ…。いいなぁ若くて。私があの歳の頃は…)
大好きな先輩との出会い、別れ、絶望、復讐…、それらの渦に人生を飲まれてしまった年頃である。今でも忘れられない皆川静香。いや、一瞬たりとも忘れた事はない。いくら忘れようと思っても決して忘れられない事がもう一つある。それは田口に抱いた憎悪…いや殺意だ。そんなものを胸に抱いて拳銃を握っていた自分が今では忌々しく感じる。全ての過去は未だに現在進行形として若菜の肩に重くのしかかっている。それが人生というものだと若菜は思っている。ただし他の、特に未来ある若い警察官にはそんな十字架を背負って任務について欲しくないと強く思っている。若菜は特に真面目すぎる結衣がそのような十字架を背負って欲しくないと思った。あの真面目さは危険だ…、そたう思ったからだ。
(何はともあれあの上原若菜さんと対話しちゃったわ、私!)
生意気な事を言いながらも偉大なる伝説の刑事、上原若菜との出会いは結衣にとって人生の中で大きな大きな事なのであった。