正夢〜鹿見護の一日〜-2
ということは、この旧教会は少なくとも十年以上前の建造物…。どうやら外壁や庭は手入れされてないらしく、壁に生えたツタや苔(こけ)が時の流れを出している。
しばらく外観を眺めていると、なにかが聞こえてきた。
歌声…?
どうやらその歌声は中から聞こえてくる。大体、新しい教会があるからそうそうここに人は来ないはず。
それに、教会を使うのが神学科か宗教学科の生徒だけ…。
(まさか幽霊だったりして…)
別に心霊現象や超能力を信じているわけじゃないけど、その歌声は俺の好奇心を激しく刺激した。
入り口へ近付くと、扉が以外と大きいことに気付いた。三メートルは…あるかな。
幸いにも扉が少し開いていたので、俺は音を殺して中へ侵入した。
中はそれほど汚れているわけでもなく、奥には大きなステンドグラス、その上には十字架が飾られていた。朝日がステンドグラスによって何色もの光を放っている。
そして、ステンドグラスの前に俺が聞いた歌声の正体がいた。
それは、女の子だった。制服を見る限りではこの学校の一年生、俺とタメかな…。
その歌は、最初は何を言っているか判らなかったけど、聞いていくうちにそれが讃美歌だということに気付いた。
その歌は、まるで誰かの心に語りかけるような、穏やかな曲だった。
歌を詠う彼女の姿を見て、俺の頭が軽くうずいた。何かを思い出したいのだが、思い出せない…。俺はこの景色をどこかで見ているはずなんだ…。
一通り歌を歌い終えると、女の子は片膝をついて十字架に祈りを捧げ始めた。
頭のうずきが激しくなる。俺は知らずのうちにうめき声をあげていた。
「…!誰です!?」
どうやらうめき声が彼女に聞こえたらしい。俺は、うずく頭を片手で押さえながら彼女に弁明を始めた。
「…悪い、歌っているのを邪魔したくなくてさ」
「…そうですか、ありがとうございます」
女の子は俺に向かって丁寧に一礼をしてくれた。つられて俺も頭を下げる。
頭をあげ、改めて女の子を見る。身長はそれほど大きくないが、腰辺りまで伸びた金と銀を混ぜたような色の薄い金髪が、彼女の身長を小さく見せている。
「俺、普通科一年の鹿見…鹿見 護。あんたは?」
その時、奥のステンドグラスから光がひときわ強く女の子に差し込んだ。それは、まるで後光のように彼女を包んでいた。
俺の視界が光で溢れていく。頭のうずきが更に強くなり意識が遠のいていく、俺が最後に聞いたのは彼女の名前だった。
「…エルナ。エルナ・エテルネル」
そこで俺の意識は暗転した。