残酷の一夜-6
(可哀想に…。女性(にょしょう)の命とも言うべき大切な場所をあんな風に…なんて酷い…!)
いつしか椿はおのれの蜜壷をせわしなくまさぐっていた。
花弁をかき分けて指を出し入れしながら、硬さを増した肉芽をコリコリとつまんでやると、たちまち息が荒くなる。
入口から淫水がじゅくじゅくと溢れ出すのが湯の中でもわかった。
(あの娘…殿方と臥所を共にしたことはあったのだろうか? もし私と同じように未通女だったとしたら…)
想像の中では自分があの娘になり代わり、敵に捕まって責められていた。
バシッ!! バシッ!!
『言えっ!! 言わぬかっ!! お前は誰に雇われてこの屋敷に忍び込んだ!?』
『ううう―――ッッ!!! 死んでも…言うものかっ! 早く殺せっ!!』
『女! そこまで覚悟があるのなら、本当に殺してやろう。ただし楽には死なさん。おいっ! こいつの袴を脱がせろ!! 股座から刀を突き刺してくれる!!』
『ははっ!!』
あっという間に袴を引き摺り下ろされ、露わになった股座に冷たい刃が迫る。
『や…やめろぉ―――ッッッ!!!!』
幻想の中で椿は身をよじらせて絶叫していた。
秘所に刀を突き立てられる苦痛を想像しながら、椿は湯の中で身悶えする。
くちくちくち…っ。
淫水でぬめる胎内では二本の指がせわしなく動き続けた。
「あ…ああああぁんっ!」
びくん、びくん。
小声で喘ぎながら椿は遂に登りつめた。身体がびくびくっと痙攣する。
「はぁ…はぁ…。また…やってしまった…」
じんわりとした快楽の余韻に浸りながら、後ろめたさから椿は思わず呟いた。
最近、激しい稽古の後はよくこうして一人遊びに耽っているのである。
道場裏にある井戸で胸元や首筋の汗を拭いた後、誰もいないのを見計らって厠に入って袴を下ろす。
(お願い…誰も来ないで…っ!)
寝覚めに布団の中で秘所に手を当て、ゆっくりとくじるのも良いが、人目を気にしつつ、ふんどしの脇から指を差し入れてせわしなく蜜壷をくじる楽しみはまた格別なのだ。
肉の快楽と罪悪感が入り混じり、あっという間に登りつめてしまう。
(誇り高い武家娘がいつまでもこんなことをしていてはいけない…)
いつもそう思うのだが、一度知ってしまった自涜の快感にはなかなか歯止めがかけられない。
(あんなもの…いっそ見なければ良かった…)
椿がこんなはしたない娘になってしまったのは、あの日の出来事が大きく作用している。
それは、三月ほど前であった。
輿入れが決まった小谷屋の女中・お軽が椿にこっそり見せてくれた一枚の枕絵。
その時、椿は女が嫁入り前に持たされる『枕絵』というものを初めて見たのである。
物陰で激しく絡み合い、下半身を露わにして口を吸い合う町人の男女。
男のいきり立った巨大な逸物が、開かれた女の股にずっぽりと嵌り込み、毛だらけの割れ目からはとめどもなく愛液が滴り落ちている。
そこにはこんな台詞が書き込まれていた。
男『アアア、いい壺だ。こんな上開(上品な女陰)はめったにねえ。中に色々な臓物がでて、雁首を締めつける心持ちのよさ。アア、モウ、どうにもたまらぬ』
女は股を大きくひろげられて、根元までズブ、ズブと押し込まれて、ひょこ、ひょこと突く調子に、淫水がヒョロ。ヒョロ。
スカリ、スカリ、グチャ、ヒチャ、ヒチャ。
ハウ、ハウ、ぬら、ぬら、グチャ、グチャ。
女『ソレ、ソレ、モウいきそうだよ。そうだよ、アア、いい。もっと奥をよ、奥をよ、突いておくれ。アア、口を吸わせておくれヨ』
アアイイ、フン、フン、ドク、ドク。
その卑猥な絵を見せられた椿は言葉を失った。
(私もいつか、殿方にこんなことをされるのだろうか…?)
そう思うだけで身の毛がよだつような、気持ち悪さを感じつつも目を離すことができない。息を飲んでじっと見つめるだけであった。
『お嬢様。おら、きっと幸せになるだ…』
そう言って微笑んだお軽の笑顔は美しかった。
…くしゅん!
いけない。一人遊びに興じるあまり湯冷めしてしまったらしい。
椿はあわてて風呂桶から出ると、手桶で汚れたふんどしを手早く洗い、着物を羽織って湯殿を出た。
(明日は、自身番に事の顛末を告げて承寛寺に女の亡骸を引取りに行かねば…)
布団の中で色々思いを巡らせた椿だったが、疲れた身体はあっという間に眠りに引き込まれていった…。