M-4
「なんであんなこと言ったの」
「あんなことってなんだよ」
「風間を傷付けるようなこと。さっきも言ったけど、風間は仕事だって頑張ってるし音楽だってあーやって色んなとこ行って頑張ってるじゃん」
「お前には何もわかんねーだろ」
「は?何その言い方。自分、風間のことはなんでも分かってます的な」
「お前、あいつのライブ見たことあんのかよ」
「…ないけど」
「あいつは妥協しないんだよ。いつも全力で、不可能なことも可能にして、どうしたら客が満足するか…そーゆーこと考えてる。仕事も同じ。どうしたら患者が満足するかって考えてる」
「……」
「俺はずっとあいつのライブ見てきたし、職場が一緒になって仕事も見るようになった。アホだけど人を惹きつける何かがあってさ」
「分かるかも、それ」
進藤はクスッと笑った。
あいつがこのライブをやり遂げた後、俺の知らない人になるんじゃないかって……そう思うから、あんなことを言ってしまった。
俺の知ってる風間陽向じゃなくなってしまうんじゃないか。
そのうちメディアに出て、周りからもてはやされて有頂天になって。
芸能人気取りみたいなイメージの嫌なやつになるんじゃないか。
心の内を進藤に吐いてしまった。
情けないもいいところだ。
「薫ってそーゆーこと考えるんだ。意外」
「魅力あるものには惹かれんの」
「風間はそんな風にはならないよ、きっと」
進藤は夜空を見上げた。
「だって風間だよ?」
「……」
「似合わないよそんなの。風間はいつまでも風間のまんまだよ。有名になろうと、そうじゃなかろうと。世間に流されるような人間じゃない」
瀬戸は鼻で笑った。
「そうかも」
目を閉じたら『sail』が頭に流れた。
いつだかのMCで話していた。
満月の夜空で舟を漕いで、星をかき集めた後それを大切な人に配るといった歌詞だ。
それは元気だったり勇気だったり、才能や知識だったりする。
でもそれはずっと自分の中にあるもので、見つけられなかったものだった。
人間味のある、真っ直ぐな歌詞だった。
風間陽向みたいに。
「あいつは、いつまでもあいつかもな」
「そう言ってるじゃん……てか、手」
無意識に進藤と手を繋いでいた。
「浮気者」
「意味わかんねーんだけど。お前、ちょっと似てんだよね、風間に。さすがプリセプター」
「どーゆーこと?」
「ウソとか下手そーなとこ」
「ばか」
「今度、一緒にあいつのライブ行こうな」
「見てみたい」
満天の星空を見上げる。
こんなとこじゃ満天とも言えないけど。
そんなこと考えてるのも、ちょっと捻くれてるのかな、俺って。
それでも小さな星を探したくなる。
お前のおかげで素直な気持ちがちょっとだけ出せるようになったよ、風間陽向。