忘我1-2
思わず手を伸ばしてしまった、といった感じで倒れそうになった奈津子の腰を支えた。
尻だけを持ち上げた淫ら格好のまま、犯した部分をのぞき込み、物の怪に取りつかれたような顔ですり寄っていく。のろのろと伸ばした手で尻をつかんだ。そのまま左右に押し開き、指先で膣をくつろげ、顔を近づけていく。
流し込んだ精液がぼこぼこと吹き出る様を見つめている。すさまじい量だ。
初めに奈津子が危険日であることを岩井が仄めかした。抜かずにほとんどを膣内に放ったのは妊娠させる気なのだろうか。
――ばかな。
岩井はティシューを引き寄せた。奈津子の胯間をぬぐっているうち、ペニスは再び鎌首をもたげた。それを確認した岩井は顔を上げ、指先で広げたままの性器に鼻先を触れんばかりに近づけた。岩井の太い喉が動いた。唾を飲み込んだのだ。
岩井の顔から表情が消えた。
片ひざをつき、奈津子に覆い被さっていった。猪のように腰を突き進める。まだ精液が滴る膣にペニスを突き通したのである。
この年齢でこの精力、とても信じられなかった。
「ガフッ」
女性らしからぬ声を上げ、うつ伏せに倒れ込んだ。岩井が全体重をかけて押しつぶしたのだ。だが、シーツに胸や顔がぶつからないよう、落ちる寸前で大きな手が奈津子の上半身を支えた。つぶしたのは下半身。
上半身には慈しむような行為を見せるが、下半身は別だった。岩に毛が生えたような尻の筋肉を盛り上げ収縮させ、下敷きにしている柔肌を押しつぶして律動させる行為は冷酷であった。
その慈しむような行為はつかの間、両手を奈津子の脇の下から差し入れ、肩からぐるりと腕を伸ばし、肘を突いて、全体重を浴びせていった。羽交い締めのような形で拘束しているので、岩井が離れぬ限り奈津子自ら結合を解くのは不可能だ。
奈津子の声質と表現が徐々に変化していく姿は義雄の肺腑をえぐった。
すでに身動き一つとれないにもかかわらず、筋肉の塊のような毛だらけの脚を、白磁のような両脚に大蛇のように絡めていく。腰を密着させたまま円を描く。大きな動きではないが、確実な結合であった。
岩井が息をするたびに、奈津子の髪が揺れた。わずかでも入っていない部分があると、下半身の筋肉を収縮させ惨く深く挿入した。結合部は見えはしないが、そんな仕草に見えた。
助けて、と囁いたのは、女性に対して平然と暴力を振るう岩井に、直接訴えられない心の叫びだと思っていた。しかしそうではない。否が応でも与えられてしまう快楽から逃れたいのだと、義雄は考え直す。
奈津子が岩井と寝食を共にしていることは事実であった。夜はこのベッドの上で岩井と寝ているのだろうか。軟禁状態なので外出はある程度自由なのだろうが、岩井のもとへ戻るしかない生活を繰り返している。おそらく、家族に危害を加えると脅されているせいで、指示に従うしかないのだろう。そうとしか考えられない。
今行なっているセックスは義雄に見せるためではない。日常の延長だ。奈津子がいなくなったあの日から、ずっとこんなセックスが続けられていたのだ。あの巨根に慣れているのはそういうわけだ。毎夜、無尽蔵の精力で抱かれ、やがては岩井から与えられる快楽なしではいられない体にされてしまった。奈津子が一番恐れていることかもしれない。さらに変態的な行為にも慣れていき、大きな快楽へとつながっていく。
変態行為は田倉も行なった。だから奈津子は慣れているのだと岩井は言った。すでに事実であると受け取っているが、それをどう処理してよいのか分らない。呵責の悲しみにひたすら耐えるだけだ。
この先、岩井は奈津子をどうしたいのだろう。一生、性の奴隷にするつもりなのだろうか。怪物じみた岩井のことだ、この先何十年も……。そんな恐ろしい考えた頭に浮かんだ。それとも飽きればまた別の……不意に下村秘書のことを思い出す。切羽詰まった声で叫んだ電話口での『先生!』とは恋人なんかではない。岩井だ。どのようにして下村秘書を犯したのか分らないが、もしかしたら共犯者がいる可能性もある。忽然と会社から消えたのは、拉致されたからだ。金の力で得体の知れない人間を雇うことも可能だ。下村秘書はもしかしたら、その共犯者たちにも……。