参-3
同性愛の獲物になったのは音夢の他にもう一人いた。同じ十歳の、まだあどけなさを残している睦(むつ)という少女だった。大人しく口数少ない彼女の父は十勇士の一人、望月六郎だった。彼も無口であるが爆弾製造・使用に長けており、その仕事ぶりは本人の寡黙さとは正反対に、ど派手だった。
「睦、ちょっとおいで」
由莉に誘われ、その後をトコトコ付いてゆく睦の身体は細く、背も低かった。
蔵に忍び込んだ二人は二階に上がり、笊(ざる)や木箱の積み重なる隙間に布を敷き向き合って座った。
「睦、気持ちいいことしてあげるね」
小さな明かり取りからの光。そこに着物を脱がされた睦の姿が浮かぶ。まだほとんど真っ平らな胸に小さく二つの蕾があり、それが由莉の唇によって摘み取られる。
乳首を吸った由莉の舌は徐々に下がり、股間に潜む淡紅色の花弁に及ぶ。
「ふううぅ〜〜〜〜ん…………」
睦のか細い嬌声が漏れる。幼い秘唇であっても念入りな舌による愛撫で花開く。そして、由莉は自らも裸になり、睦と脚を交差させる格好で秘唇をくっつけ合う。
ゆるやかに腰を動かしていると互いの割れ目が濡れてきて滑りがよくなる。強く女陰を押し付け合い、水っぽい音が立つほどに腰を揺らす。
互いに甘い声が漏れ、それが高まってゆき、由莉は局部に甘美な高まりを覚える。ところが相手はもっと激しい高まりを迎えたようで、腰を跳ね上げ軽く痙攣までしていた。逝く時も声をほとんど上げない睦だったが、その身体の震えは悦びを如実に表していた。
『可愛いなあ……。これだから、女の子と交わるのがやめられないんだよなあ……』
由莉の女好きはこうして深まっていった。
真田の傀儡女見習いの少女たちは、千夜から命じられる性器引き締め鍛錬の他に、それぞれ勝手に相手を見つけ、性の実戦を重ねていた。
しかし、早喜と沙笑だけは、身体の俊敏さ、体術のきれのよさを磨くのがもっぱらで、男と身体を重ねて汗をかくことはおろそかになっていた。
それでも沙笑は、たまに気が向くと、近くの橋本の宿(しゅく)まで足を伸ばし、見目よき若い衆に声を掛け、色事に及んでいた。
ところが早喜は、房事にはどうも及び腰。幸村に女にしてもらって以来、近在の男と寝た数は五指にも満たなかった。
「早喜。おまえ、もっと、まぐわいを重ねないといけないよ」
千夜が注意すると、娘は「うん……」と生返事。
「おまえと寝た男は、また早喜をお願いしたいって評判いいんだからからさあ、もっと励みな」
「……うん」
「まだ若い早喜は、色んな奴とまぐわって、男とはどういうものか知っておくべきなのさ。女の悦びは浅いのから深いのまで様々だ。相手によって変わる。それを今のうちに身体に叩き込んでおくんだよ」
「かかさまから性の奥義を習ったほうが手っ取り早くないか?」
「馬鹿言うでないよ。あたしから手管を習うなんざ十年早い。その前に、みっちりと男どもを相手にして場数を踏むことだ」
「そりゃあ……分かっては……いるけどさ」
言葉を濁す早喜。
彼女は誰彼なしに同衾するのが嫌だった。ある男とならば寝てもよいとは思っていた。その男とは九度山の臥龍、幸村だった。彼によって破瓜を済ませた早喜は、それ以来「佐の殿、佐の殿」と無邪気に接することが出来なくなっていた。幸村に、どうしても「男」を意識してしまい、姿を見ると不自然に視線を逸らすようになっていた。
幸村によって女になった娘は早喜の他に沙笑、宇乃、伊代、由莉、睦と五人もいたが、幸村を妙に意識しているのは早喜だけのようだった。温厚で篤実さが溢れる男であったし、槍の腕前も抜群で尊敬すべき主君ではあったが、四十がらみで風采の上がらぬ幸村を、必要以上に気に掛ける娘はいなかった。
だが、早喜は、女にしてもらった時、幸村から優しさの他に、何か得体の知れぬ、大きな魅力を感じたのだった。しかし、まだ十一歳の少女は、自分の想いを胸の奥に秘めていることしか出来なかった。