第三話-2
「お、女を何だと思ってるのよ、やってられないわ!」
如月はとうとうガマンの限界を越えたのか
この場を退室するために扉へ向かってツカツカと歩を進めた。
「あら、またそうやって途中で投げ出して、逃げるのかしら?」
そこへ、背後から侮蔑するような言葉をかけられ、如月はキッと振り向く。
「何ですって!」
「貴女、元々は違う夢があったらしいけど。
どうせそれも、そうやって自分勝手に投げ出して、諦めたのでしょう?
ちょっと気に入らない事があるとすぐ放棄して、逃げ出す。
そんな人間、どこに行っても何をやっても成功しないわ。
夢も諦め、せっかく入れた一流企業も諦め、あとはもう下へ下へ転落していくだけでしょうね。」
「!」
如月はそれに返す言葉が見つからず、その場に立ち尽くした。
他にも耐え切れず室内を出ようとしていた者がいたのだが
彼女達もぴたりと歩を止め、先ほどの言葉も同時に思い出し
自分達はもう崖っぷちにいるのだという事を再認識する。
「見てご覧なさい、この映像の女性社員の反応を。」
グラマー女はそう言葉を続け、スクリーンを見る様に促す。
性的な侮辱を今まさに散々受けていた黒髪の女性は
耳を塞ぐ事も、その場を逃げ出す事もなく
醜い言葉を投げかけた男達に満面の笑みを返していた。
「いやぁん、ごめんなさい、そうなんですっ。
私、仕事はロクに覚えられない半人前のクセに、エッチな事ばっかり覚えて
男の人と夜のお勤めに励んじゃってるダメダメ女なんです……。
あの、よかったら今度、私にお仕事の方、個人指導して頂けませんか?
そうして頂けたら、私も夜のお勤めで、たっぷりお返ししますから……。」
意味ありげに言いながら、自分の口元に指を当ててウインクをする女。
その言葉は、ただ男に都合のいい、媚びるようなもの。
現代社会では、即裁判沙汰になってもおかしくない卑劣なセクハラに対して
このような返答をするなど、通常では絶対にあり得ないことだろう。
「どうかしら?この社員は、ちゃんとセクハラ枠としての勤めを果たしています。
皆さんも、彼女を目標に、これから研修に励んで頂きますよ。」
信じられない。と思いつつ、自分達にとっては
セクハラ枠社員の先輩、という事になる黒髪の女性を呆然と眺めている一同。
「こ、こんな女がいるから、女全体が軽く見られるのよ……!」
女だからと舐められたくない。男に負けたくない。
その一心で努力を重ねてきた藤堂にとって
男に易々媚びながら自分の立場を確立しているこの女は
ある意味で下劣な男達以上に許せない存在に映った。
しかし、そんな藤堂自身も今やこの女と同じ立場にいるのだ。
彼女はその現実から逃げる様に、考える事をやめた。