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耳にキス、キス、キス。
【女性向け 官能小説】

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理由-12

「あぁ、それね。さっきお風呂に入る前に取り付けたんだけどね、この家のままだとやっぱり心配でさ」

 U字のドアロックの上に見慣れないもの。
 ドア枠とドアに金具が取り付けられ、シルバーの四段番号可変南京錠がぶらさがっている。

「簡単に取り付けられる補助鍵なんだけど、念のためね。暗証番号がわからないと開かないやつ」

 わたしは、南京錠をじっくり見つめてからヒロキくんを振り返った。
 ヒロキくんは腕を組んで、わたしを見返した。──天使のような笑顔を浮かべながら。

「沙保さん、昨日ドアを開けようとしたでしょ。だからね、念のため。僕、明日も泊まりに来るね。ご両親への挨拶のことや家のことを相談したいしさ。沙保さんの元カレとその女の対策も考えなきゃね。菜里香さん、だっけ? ふたりの問題に沙保さんを巻き込まないでって僕が話をしたほうがいいかなぁとか今日バイトのときに思ってたんだけど、どうかな?」
「あ……えっと、どうしよう」
「沙保さんが構わないなら僕から話をするよ。沙保さんを守るのは僕の役目だからね」

 ヒロキくんが冷えるからとわたしの肩を抱いて、ベッドのあるほうへ歩いていく。
 急にいろいろなことが目の前に並んで、思考が追いついていないみたいだ。家、両親、挨拶、同棲、鍵、雅也、菜里香……。

 好きなひとと──ヒロキくんといっしょに住む。なんて幸せなことだろう。
 毎日いっしょに起きて同じものを食べて体温を感じながら眠る。考えただけでもそれはとても素晴らしいことに思えた。

 両親に挨拶に行きたいと言ってくれた真面目さも、ヒロキくんらしくて好ましい。
 きっと父も母もヒロキくんを気に入ってくれるはず。
(人懐こい子犬みたいなヒロキくんを好きにならないひとはいないんじゃないかって、わたしは割と本気で思ってる)

 ヒロキくんがわたしをベッドの上に座らせ、目線をあわせるように屈んで──キスをした。

「沙保さん。どうしようもないくらい好きなんです。僕、重いよね。ごめん。わかってる。でも我慢できない。沙保さんを縛り付けておきたくて仕方がない。手遅れになる前に……そうならないように、沙保さんの元カレが来られない場所に沙保さんを閉じ込めたい」
「ヒロキくん……」
「こんなこと言ってごめん。重いよね。でも、あいつのことを許せなくて。こんなことをして──ごめん。僕のことを嫌いにならないで」
「嫌いになんかならないよ、ちょっとびっくりしただけ。家を探そうって言ってくれて嬉しかった」
「ほんと?」

 子犬みたいなしょんぼりとした顔。今にも泣き出しそうな表情。
 ヒロキくんのそんな悲しそうな顔は見たくない──わたしはにっこり微笑むと、ほんとだよと言ってヒロキくんの首に腕をまわした。

「沙保さん──よかった……」

 ヒロキくんがわたしをぎゅっと抱き返す。
 息がつまるほどの抱擁だった。

 ヒロキくんは“手遅れ”になってしまうことを怖がっている。そう、思った。
 それは彼のせいじゃない。
 わたしが彼にそう思わせてしまうことがいけないんだ。
 ヒロキくんを悲しませてはいけない──。

「沙保さんのことを信じていないわけじゃないんだよ。でも……こうでもしないと、僕……ほんとに沙保さんを縛って動けないようにしてしまいそうで……」
「ヒロキくん、ごめんね。ほんとうにごめんなさい。もう雅也のことは絶対に信じないし、雅也の知らない場所にヒロキくんとふたりで行きたい」
「嬉しい……ありがとう。大好きだよ」
「わたしも、大好き」

 わたしたちは抱き合ったまま、舌を絡め合って長い長いキスをした。
 荒い吐息が二重に鍵のかかった部屋の中に深く広がった。


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