〜 木曜日・講話 〜-3
ここで、教官は一息いれた。 顎をひいて正面から私達と対峙していたのが、顎で私達をさして斜めに見下ろすいつものスタイルに戻った。 さっきまでは淡々と早口にまくしたてた口調も一変した。 いつものように、つまらなそうに素っ気ないトーンで、教官は続けた。
「宜しい、ならば実践です。 今日は1日かけて、正しく、素早いマスターベーションを学びましょう。 私の予定では100回以上は達するはずですが、それはオマエ達が怠けなかった場合です」
「……!」
やっと教官が何を言っているのか聞き取れるようになったと思ったら、いきなり信じられないことをいう。 100回? え、なに、100回? 達するって、私達が絶頂する回数が、今日だけで100回になるとでも……? 頭からサーっと血の気が引く。 根拠なく抱いた胸の光が急速に陰る。
「もしもオマエ達が指示を破り、マスターベーションに浸ったり、刺激を緩めたり、内心で反抗した時は、当然ですが規定の回数をこなせません。 けれど、逐一追加で指導を与えていては、全体の進行が滞ります。 なので今日に限り、指導を全うできなかった生徒は置いて、先に進むことにしました。 ただし――」
教室中を睥睨する2号教官の冷たい瞳。
ゴクリ、知らないうちに私は唾を呑み込んだ。
「――指示を度を過ぎて守れなかったものは、放課後に『補講』を受けて貰います。 正直いってマスターベーション分野の『補講』は、先日30番が受けた『補講』と違って危険度が高いことは事実です。 この『補講』で命を落とした生徒も、私が知るだけで2名いますし、個人的にはオマエ達に補講を受けたくない気持ちは理解できます。 といっても情状酌量の余地はありませんから、とにかく、しっかり指示を守るように」
危険? 2名……命を落とすって? それはつまり、死ぬ、ということ?
聞き間違いじゃない。 それに、2日前に30番が教室の前で告白した、彼女が受けた『補講』の内容は、明らかに常軌を逸していた。 彼女が死んだとしても、全くおかしくない状況だった。 それを上回る危険な補講が私達に、否、私に与えられるかもしれない?
グルグルぐるぐる思考が回る。 打たれる痛みに伍したことで芽生えた私の余裕は、教官の一言で跡形もなく消え去ってしまったかのようだ。
「チャイムと同時に1限を始めます。 それまでに、せめて平静さを取り戻すよう、しっかり心の準備をするように。 いいですね」
「「ハイ! インチツの奥で理解します!!」」
心の準備もなにも、何をどうしろというんだろう。 オナニーを連続でする準備……今まで考えたこともない。 こんなことを考えるために、一生懸命幼年学校で勉強して、『学園』に入学するために『首席』をとったわけじゃない。 それでも、補講だけは絶対にイヤだ、何としても教官の指示通りに動かなくちゃいけない。
余裕をもっている方が何かにつけて融通がきくのはわかっている。 けれど私の固い頭は『補講を免れる』ことで、いっぱいいっぱいになっていく。 そんな中、
キーン、コーン、カーン、コーン。
1限開始を告げる無情なチャイムが、教室に響いた。