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耳にキス、キス、キス。
【女性向け 官能小説】

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-4

 ヒロキくんの過去。
 子どもの頃。そこはどんな世界だったのだろう。どんなふうに育ってきたのだろう。

 わたしの知らないヒロキくんの生きてきた過程を見られる楽しみに、良い気分のまま眠りについた──のに。どうしてこんな時間に目が醒めてしまったのかしら。

 何気なくSNS上の書き込みを更新したとき、ぽろんと見たことのある顔が目に飛びこんできた。

「あっ!?」

 思わず起き上がってしまった。
 ベッドサイドに置いてあるチェコガラスのルームランプをつける。
 グリーン系統の爽やかで綺麗な色が浮かび上がった。

 その書き込みは、わたしの友達のひとりが、わたしや他のユーザーにも見てもらえるようにと引き継いで流したものだった。
 元々書き込みを行った本人は、わたしの知り合いの中にはいない、別のユーザーだった。

「春から通う大学の最寄駅近くのCDショップに超カッコイイ人がいたんだけど!直接話しかける勇気はなかったから、もしこれやってたら彼までこの書き込みが届いたりしないかな!? 繋がれたらいいな!」

 一緒に載せられていた写真は、ショップの制服姿のヒロキくんだった。

 この書き込みを流したわたしの友達は、流したあとに「この写真のひとって、もしかして」と書き込んでいた。

 その友達とは『螺旋』をキッカケに知り合った。
 彼もヒロキくんと繋がりがある。

 彼の他に、すでに五十人程の別のユーザーがこの書き込みを引き継いでいる。
 このSNSを利用しているいろいろなひとの元へ、ひとつの書き込みが引き継がれ拡散されていく。──ヒロキくんの写真が!

 どうしよう。
 きっとヒロキくんはまだこのことを知らないはず。
 でもこんな時間に電話するのも迷惑だよね……。

 それにしても、よく撮れている。
 パッと撮った割には、ヒロキくんの端正な顔がブレずにきちんと写っていて、尚且つ彼の持つやわらかい雰囲気ととっつきやすそうな人当たりの良さまで伝わってくる。

 アイドルの生写真みたいだ。──なんて、感心している場合じゃなかった。

 とりあえず、“おはようメール”のタイミングにでも伝えてみよう。わたしが出しゃばって、この女の子に何か言って拗れても嫌だしね。

 わたしはそう決めると、SNSを閉じてスマートフォンを枕元に置き、ランプを消した。
 ぐっすりとは眠れなくても休んでおかないと仕事に差し支える。

 会社が休みの土日の間に入った注文を月曜日の朝にまとめてチェックしなければならないので、月曜日は特に忙しい。

 注文者情報や送り先の入力欄の下にある“備考欄”に長々と質問を書くひとが時折いるため、チェックに時間がかかることもある。

 インターネットを通していても物を売ることには変わりがない。
 顔が見えない分、より丁寧に仕事をしなくてはならないとわたしはいつも仕事の前に心の中で自分に言い聞かせている。

 わたしはごろりと横になると、肌触りの良いシーツを頬に感じながら深呼吸をして目を閉じた。


 ヒロキくんの写真は彼が本人に削除してもらえるよう頼んだことで、それ以上広がることはなかった。と言っても、わたしがヒロキくんに伝えたときには百人近くのユーザーがその書き込みを引き継いで流してしまっていたけれど。

 書き込んだ本人は、ヒロキくんと“繋がる”ことができたのであの拡散されていた書き込みはもう不要になったとその日のうちに新たな喜びの書き込みをしていた。

 その書き込みも別のユーザーが引き継いで広く拡散していた。

 ヒロキくんは「まいった」と言い、「僕が何か書き込むたびに反応してくる」とため息まじりにこぼしていた。彼女がいる旨を伝えても変わりがないそうだ。
 モテる男って大変なんだなぁとわたしは改めて思った。

 わたしが淹れた珈琲をひとくち飲んでからヒロキくんが言った。


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