雨傘-12
「沙保さん……沙保さんのこんな姿を見ていいのは僕だけ……あぁ沙保さん、もっと乱したい……もっと感じて……」
「ヒロキくんっヒロキくんっ──あぁぁんっ」
ヒロキくんがわたしを貫く。
今まで感じたことのない感覚がわたしを支配した。
ヒロキくんがわたしに長いキスをする。
わたしたちはひとつになった。
わたしはシーツを掴むと、ヒロキくんの動きに合わせて声を張り上げた。
抑えようとしても押し出されるように声が出てしまう。
ヒロキくんが両手でわたしの膝を掴んで腰を振る。
胸が痛いほどにぶるぶると揺れた。
「沙保さん……沙保さんっ……」
舌を絡め、わたしの耳を舐めて耳元で名前を呼ぶ。
ヒロキくんの甘い声がさらにわたしを乱した。
肌と肌がぶつかる音がする。
わたしはヒロキくんの背中に爪痕をたてながら叫ぶように言った。
「ヒロキくんっわたしっ……もう……あぁんっんっイッちゃいそうだよぉ……ああっあんっんっ」
「イッていいよ、沙保さん……イッて」
「あぁっあんっあっあんっイクッイクッあぁあんっ」
腰がガクガクとして、蜜壷がヒロキくんを締め付けた。
ヒクヒクと痙攣するように果てたわたしにキスをして、ヒロキくんが俺もと言って唸るような声を出してわたしのおなかあたりに白濁した液体を吐き出した。
「──眠い?」
シングルのベッドに寄り添うように横になり、ヒロキくんがわたしの髪を指で梳きながら聞いた。
誰かに髪を触られるのはどうしてこんなにも心地よいのだろう。
「ちょっと……」
布団の中はあたたかく、さらにヒロキくんの体温がわたしの瞼を重くする。
すべすべの、女の子の身体みたいな肌。
マスカットのような香りがより濃く感じられた。
「じゃあ、帰らないといけないな。沙保さん、明日も仕事だもんね。でも帰りたくないなぁ」
ヒロキくんがぎゅっとわたしを抱くと、離したくないと囁くように言った。
腰のあたりがざわめく感じがした。
「沙保さんはね、ほんとうは沙保さん自身が思っているよりずっと深く傷ついているんだと思うんだ」
「え?」
「沙保さんから元カレをとった友達のこと、その友達の言葉、それから元カレの言葉。どれもすごく酷いことだと僕も思う。友達の言葉なんて、絶対に言っちゃいけないようなことでしょ」
ふいに、あの日の菜里香の歪んだ口元が浮かんだ。
耳に残ったあのときの言葉。
忘れようにも忘れられない言葉。
「僕はね、沙保さん。沙保さんが寝る前に飲んでるマイスリーみたいな存在になりたいんだ。僕がいることで、沙保さんが安心して穏やかに眠れるようになったらいいなあって。薬はいつかはいらなくなるだろうけど、僕はずっとずっと沙保さんのそばにいて沙保さんに寄り添っていたい」
「ヒロキくん……」
「沙保さんは何ひとつ悪くない。酷い言葉を浴びせられるような筋合いはないんだ。沙保さんがつらい思いをする必要はない。沙保さんはそのままでいいんだ。気にする必要なんてこれっぽっちもないからね。沙保さんには僕がいるから、僕の言葉だけを聞いて」
胸がいっぱいになるというのはこういうことなのだろうかと思った。
のどの奥のほうが熱くなって、声が出ない。全否定されたわたしを救う、わたしを全肯定する言葉。
今のわたしに、一番必要だった言葉なのかもしれない。
仕事をしていても頭の隅には常に菜里香の言葉がこびりついていて、ミスをするたびに自分はなんて駄目な人間なんだ、こんな自分はいないほうが良いのかもしれないと思い詰めてしまっていた。それをヒロキくんは気づいていた……?