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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-163

「勇太郎……」
 意外に強く握られていて、どうしたものか考えていると、ふいに、あわただしく弥生とふたみが姿をあらわした。おそらく、ブレーキ音とひとみの声に、反応したのだろう。
「ど、どうしたんだい!?」
「おばあちゃん! 勇太郎のおじいちゃんが、大変なの! 今から、勇太郎と病院へ行くから!!」
「なんだって!」
「ごめんなさい! 詳しいことは後で電話するから!」
 ひとみは勇太郎の乗る席に割り込むようにして身を入れると、すぐにドアを閉めた。
「先生、お願いします!」
「ああ」
 杉本は思い切りアクセルを踏み込む。
「しっかり、つかまってるんだぞ!」
 そして猛烈な排気音を残して、隣り合う安堂家を後にしたのであった。





「うん、うん……ごめんね」
電話口でひとみが話している相手は、弥生である。
「おじいちゃん、とりあえず今は持ち直したって………うん、わかったよ」
 ひとみは、弥生にそう告げると、今度はふたみに変わってもらい、同じことを伝えた後で受話器を下ろした。テレカが吐き出され、病院独特のしじまに耳障りな音が響く。
すぐにそれを引き抜くと、ひとみはひとつ大きく息を吐いた。
「ひとみちゃん」
 低い男の声が、名を呼んだ。ひとみはすぐに振り向くと、深々と頭を下げる。
「先生、ありがとうございます」
「いいんだよ。ひとみちゃんの大事な人のためだからね」
 夜の時間にも関わらず、自分たちの脚代わりになることを快く引き受けてくれたことに、もう一度ひとみは礼を述べた。
「彼氏君は?」
「いま、おじいちゃんといます」
「そうか……」
 杉本は数時間前の出来事を思い返す。
 病院に着くなり、すぐに二人を第三病棟の近くで降ろし、最寄の駐車スペースに車を押し込んだ後、杉本も、聞かされていた場所へ向かった。
 その309号室には誰もおらず、杉本は近くにいた看護師を捕まえて事情を質した。
そして、この部屋にいた患者が運ばれたという治療室に向かうと、その扉を前に呆然と佇んでいる勇太郎と、それを必死で支えているひとみの姿を見つけたのだ。
 杉本は何も訊かず、何も言わず、そんな二人の傍にいた。今はとにかく、待つよりほかはないのだから。
 しばらくして、使用中の赤いランプが消えた。扉が開き、中から、人工呼吸器を口元にあて、キャスターに横たわっている老人が運ばれてきた。
 勇太郎が、“じいさん”と叫び傍による。白衣を着た中年の男性が、“とりあえず、持ち直したから、心配ないよ”と彼に諭し、付き添っていた看護師に二言・三言なにかを指示するとその場に留まり、看護師と共に運ばれていくキャスターを追うようにして後についていく少年と少女の後ろ姿を見送った。
「誠司」
 杉本はすぐに、その医師の名を呼んだ。
「秀一郎?」
 思いがけない知己との再会に、杉原は瞠目してその相手を見据える。間違いなくそこには、大学時代の旧友がいた。
「久しぶりだな、と、言いたいところだが」
 秀一郎は一呼吸置いて、
「あの患者は、“どう”なんだ?」
「………」
杉原は、難しい顔をした。
「まずいのか?」
「………患者のプライバシーは他人に話してはならない」
「わかっている」
「だが、どうやらお前は身内に近い人間らしい。……話すよ」
白衣のまま近くのベンチに杉原が腰掛ける。それに倣うように杉本も、腰をおろした。
とりあえず杉原は、杉本に対して郷吉の病状と今まで行ってきた検査の内容、その結果などを簡潔に話した。込み入った部分については伏せておいたが、それは病院の守秘義務に準拠してのことだ。まあ、ここまで話してしまえば、守秘とは言えないのだが。
杉原の話は続く。


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