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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-164

「私は、余命1年と宣告していた」
「………」
「ところが、だ。ある時期から全く病状は進行しなくなった。だいたい半年ぐらい、清閑な状態が続いた。一時帰宅の許可を考えたぐらいに、な。……それが今日になって、急に悪化した。まるで、止まっていた分の病状が一遍に襲い掛かってきたような、本当に急激な発作だった」
 ふぅ、と杉原は大きく息をついた。
「取りあえず、今回は持ち直した。だが、次の発作が起これば命の保障はできない。おそらく、弱ってしまった心臓が追いつかないだろう」
「………」
「最善は尽くす」
 話は終わり、とばかりに杉原が席を立つ。杉本もそれを承知しているから彼を引きとめはしない。
「ありがとう誠司」
「………」
 軽く手を挙げて親友への返答を述べると、杉原はそのまま廊下の薄闇に消えていった。
 それを見送った後、二人のもとへ戻ろうとしたのだが、ロビーのところで公衆電話を前に話をしているひとみの姿を見つけて、話しかけた。
 それが、事ここに至るまでの顛末である。
「家に、連絡したんだね」
「はい……」
 いつも元気で快活なひとみの声は、暗く沈んでいる。無理もない、と杉本は思う。
「あの、先生……」
「ん?」
「私、勇太郎と一緒にいます。ごめんなさい、先生」
 先に言うべき言葉は、再び頭を下げたひとみの行動によって失われた。
「弥生さんは、何って?」
「おばあちゃんは、構わないと……でも、心配そうだった……」
 そうだろうな、と杉本は一言だけひとみに言う。だが、無理に彼女を説き伏せて、家に帰る気にさせようとは思わなかった。
「先生、図々しいとは思うんですけど」
「ん?」
「おばあちゃんのところに行って、お話をしてあげて欲しいんです。ふたみもきっと、心細いと思ってるだろうし……。わがままで、勝手だとはわかってるんですけど……あっ」
ふいに、大きな手のひらで頭を撫でられた。
「私にとって、君たちは家族みたいなものだよ。私は今日、弥生さんの家に泊まることにするから、なにかあったら、家に連絡するんだよ。それと明日、弥生さんとふたみちゃんを連れてくるから。……ひとみちゃん、無理してはいけないよ」
触れられているところから、杉本の暖かさが流れてくる。ひとみは、込み上げてきたものを必死に押さえ込んだ。
そんなひとみの頭をもう一度優しく撫でると、杉本はそのまま病院を後にした。
残ったひとみは、郷吉が新しく運ばれた病室へ向かう。
「勇太郎……?」
今までの最終病棟とは全く違い、白く冷たく無機質な感じのする部屋の中に、彼はいた。
横になっている郷吉のすぐ傍に腰掛けて、まるで魂を失ったかのように無表情なままだ。眠り続ける郷吉の顔を凝視するその眼差しに、精気を感じることはできない。
「………」
何も言わず、その隣に椅子を持ってくる。そのまま腰掛けて、膝の上で固く閉ざされている勇太郎の拳を、そっと包みこんだ。
 それを待ちわびていたように、勇太郎の拳が開いて、握り締めてくる。しかし、彼は何も喋ろうとはしない。まるで、眠っている祖父の魂を追いかけているかのように。
ひとみは、郷吉の方を見る。
いつも豪快かつ快活な笑顔で周囲を喜ばせた優しい表情は、今は全く影を潜め、口元に当てられた薄緑の人工呼吸器から聞こえる空気の漏れるような音が、どうしようもないくらいの心細さを感じさせた。
まるで、往生を待つしかないように、静かに眠り続けるその姿に背中が冷たくなる。
(1年―――)
初めて勇太郎と一緒に郷吉を見舞った日、彼から告げられた数字。その時から、半年近くが過ぎている。逆算すると、医師の診断から10ヶ月あまりが経過している事に気づく。1年という数字の範疇に、充分入ってくる期間ではある。
「おじいちゃん……」
それと意識せずに漏れた呟きは、勇太郎の耳にも、郷吉の耳にも、届くことはなかった。


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