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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-162

『すぐに、病院に来れる!? 郷吉さん……勇太郎さんのおじいちゃんが、危ないの!!』
「え……」
『急に、容態が……とにかく、すぐに病院に来て!!!』
 電話口の焦った声が、用件を話し終えると聞こえなくなった。ツー、ツーといういつもは長く聞くことのない音を残して。
「ゆ、勇太郎?」
 子機を掴んだまま、動きを止めている勇太郎を心配し、ひとみが傍に寄った。彼の表情を見れば、電話の内容がかなり重いものだったということがわかる。
 そして、ひとみの察しの良さは、彼を取り巻いている状況を絡めたときに、聞きもしない回答を既にはじき出した。
「病院からだったの?」
「っ」
 その一言に、勇太郎は我に帰る。電話向こうで、斉木久美が話していた内容を、一句違わずリフレインさせる。
(じいさんが、危ない――――)
「ゆ、勇太郎!?」
 彼はやにわ立ち上がると、上着を取り出し外にでようとした。しかし、その腕を掴んでひとみが止める。
「な、なにするんだよ!」
「勇太郎、落ち着いて! いま、電車もバスもなにもないのよ!」
「!?」
「電話、病院からだったんでしょ? おじいちゃんに、何かあった?」
「そ、そうだ、そうだよ! じいさんが、危ないって!」
「―――!?」
ひとみの予感と想像は、当たっていた。
「は、早く病院に行かなきゃ!」
 勇太郎はひとみをひきずるように外にでようとする。それを必死に止めて、ひとみは尚も言葉をつなげる。
「ダメだって! 歩いていくつもりなの!?」
「だ、だって、だって、早く行かなきゃ、じいさんが、じいさんが!」
 勇太郎は完全に正気を失っている。
ひとみはとにかく、気を焦らせる勇太郎の心を落ち着かせる手段を探す。彼女は、とても冷静だった。
「勇太郎、電話を借りるわ!」
「ど、どうするってんだよ!」
「車よ! 車を用意するから!」
「え……」
ひとみはすぐに子機にあるダイアルを素早く押す。そんな機敏な彼女の動きに魅入られたか、勇太郎は呆然とその行動を目で追っていた。
「あ、杉本先生ですか? こんばんは、夜分に恐れ入ります。安堂ひとみです。……あ、はい。いえ、こちらこそ、いつもお世話になってます……」
ひとみは世間的な挨拶もそこそこに、用件を矢継ぎ早に伝える。
「あ、あの、不躾なお願いというのはわかっているんですけど、お車を貸していただきたいんです。病院から連絡があって、勇太郎君のおじいさんが危ないって……え? あ、はい、ありがとうございます!!」
ひとみは子機から耳を離すと、こちらをうかがっている勇太郎に、
「先生が車を出してくれるから、それで病院に行こう?」
 と諭した。勇太郎は、まだ何か言いたそうにしていたが、やがて力が抜けてしまったかのようにその場に膝をつく。
ひとみはその身体をしっかりと支えて、
「だいじょうぶ、だいじょうぶだから……」
 と、胸に抱きしめた。いま彼の身体を離してしまったら、まるで砂のように崩れて何処かへ消えてしまいそうに思ったからだ。
やがて勇太郎の家の前にブレーキ音が響く。
すぐに、ひとみは勇太郎を伴って玄関先に立つと、杉本内科の医師・秀一郎が乗り出すようにして助手席の窓から顔を出して待っていた。
「早く乗るんだ!」
 彼は弥生と懇意にしているから、その隣人である勇太郎の事情にも精通している。だから、ひとみから電話を受けたときに、一も二もなく了承し、車を用意してくれたのだ。
「勇太郎、早く乗って!」
ひとみは後部座席のドアを開け、呆然としている勇太郎を中に押し込む。そして、ドアを閉めるためその場を離れようとしたとき、彼の手が自分の腕を強く掴んでいることに気がついた。


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