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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-144

『………

「あっ……」
 “入院生活”が8ヶ月を越えたある日の午後。
転寝からさめ、催した尿意をトイレで解放し、廊下に出たところでそれは起こった。
「あ、なに……あっ……」
 なにかを絞るような息苦しさが、膨らんだ下腹から湧いてくる。壁に寄りかかって、しばらく様子を見ていたが、それは数十秒ほどで収まった。
(なんだったんだろう……?)
 起きぬけの思考が、さしもの弥生に“それ”であることを悟らせなかったようだ。
「あらぁ……お目覚めぇ?」
 エプロン姿の花江がリビング空間で何かしていた。
「おはようございます」
「おはよう弥生ちゃん」
「お父さんは―――っ」
 訊こうとした瞬間、また絞るような感覚が下腹に。それは、腰まわりを中心にじんじんと鈍く広がっていく。
「? どうしたの弥生ちゃん」
 急に言葉をなくし、お腹の膨らみや腰を怪訝そうに触っている弥生に花江は問う。
「なんだか、お腹が……あ、収まった……」
「あらあらあら。陣痛が、始まったのねぇ」
「え!?」
 陣痛―――。お産の始まる、身体的兆候。“痛”というから、もっと激しいものかと思ったのに、なんだか余裕のある感じだ。
「まあまあまあ。弥生ちゃん、楽な姿勢になっていてね」
 すぐに花江は弥生を寝室に戻し、彼女を寝かせた。弥生は言われたとおり、楽な姿勢を探して、とりあえず身体を横にする。
「ダーリンに電話するわぁ。どうする? 病院で産む? ここで産む?」
「え、あの……」
「病院で産むなら、お車を用意するわぁ。ここで産むなら、ダーリンを呼ぶわぁ」
「あ、あの……それじゃ、ここで……」
「わかったわぁ」
 花江はまるでスキップでもするように寝室を出て行った。
弥生は、もうすぐ出産という事実をなんとも飲み込めないまま、楽な体勢を保つ。
「ダーリン、すぐに来てくれるってぇ」
 花江もすぐに戻ってきた。そのまま傍に椅子を持ってきて腰掛ける。
「どぉ?」
「あんまり……痛くはないです……」
「そうねぇ……まだ、最初の方だものねぇ……」
 ふいに、だだだだと廊下を走る音が響いた。ばたり、とドアが開き、郷市が顔を出す。中に入らないのは、自分が土汚れにまみれているとわかっているからだ。
「弥生、産まれるのか! 弥生!!」
「お父さん……」
「あらあらあら。市サン、まだまだよぉ」
「え、でも、陣痛始まったって……」
 それを自分に教えたのは、目の前にいる花江であるはずなのに。
「まあまあまあ。陣痛が始まったからって、すぐに産まれるわけではないのよぉ。それよりも、市サン、お風呂に入ってらっしゃいな。弥生さんのそばに、来たいでしょう?」
「お、そ、そうだな……」
 郷市は、言われるままにその場を後にした。
 その後、大きな動きもないまま時間が流れた。相変わらず絞ってくるような息苦しさが断続的に腰回りを覆うが、すぐにそれは引っ込む。
「ダーリンが、来たわよぉ」
 寝室の中に、根室が姿をあらわした。弥生を確認するなり、柔和な笑みを浮かべ、近くの椅子に腰掛ける。


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