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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-145

「どうじゃ、様子は」
「はい……少し、間が短くはなってきましたが……」
「そうか。それなら、もうしばらく様子見じゃな」
 花江にその場を任せると、根室は寝室を離れた。
「せ、先生……」
「おう市サン」
 その根室を郷市は捕まえる。
「あの、娘は……?」
「まあ、落ち着きなさい。それより、久々に挟もうじゃないか」
「?」
 根室がバックの中から、やけに大きな木彫りの正方形を取り出した。わかっている。それは、将棋版だ。
「え、こんなときに?」
「本格的な陣痛が始まるまでは、さしものワシでも何もできんよ」
「………」
「ほれ、やろうじゃないか。なにもしないよりは、時間を忘れられるじゃろ」
 別の箱から駒を取り出すと、飄々と自分の陣地に並べ始めた根室であった。



「ふぅ〜………はぁ……はぁ…………ふぅ〜……」
 始めの頃より、強めの波が来るようになった。そのときに、教えられた呼吸法で波を流し、とにかく楽な姿勢を維持する。花江がずっと付き添ってくれて、腰の部分を撫でてくれるので、とても安心感があった。
「弥生ちゃんはぁ、どっちが生まれると思う?」
「そ、そうですね……」
 陣痛が来たときは、それに集中し、間ができたときには花江との会話を楽しむ。こんなにも、出産とは穏やかなものだったのかと、弥生は今の時点では拍子抜けしていた。
「先生、どうですか……」
 郷市が、ドアの陰から顔を出す。中に入ってこないのは、なにか足を踏み入れてはいけない領域であると思い込んでいるからだろう。
「そんなとこにいないで、こっちにいらっしゃいなぁ」
「い、いいので?」
「親子でしょお?」
 それなら、と抜き足でベッドによってくる。その様が滑稽で、弥生と花江は顔を見合わせて笑っていた。
「ほら、腰を撫でてあげてぇ」
「い、いいので?」
「親子でしょお?」
 それでは、と恐る恐る娘の腰に手を当てて、まるで腫れ物に触れるがごとく優しく撫でてあげる。
「ど、どうだ? 大丈夫か?」
「うん……お父さん」
 穏やかな空気に包まれて、親子の時間は流れていく。時折深く息をつく弥生を優しくいたわるように、腰のマッサージを続ける。いつのまにか、花江は部屋からいなくなっていた。……ドアのむこうで、夫と将棋版を挟んでいる。
「どっちだろうな」
「ん……?」
「男かな、女かな……」
「そうだね……お父さんは、どっちがいい?」
「俺は、そうだな……女がいいな……弥生みたいに、美人で賢い女の子。あ、でも……男もわるかねえな……」
 夢想の羽は、どんどんと広がっていく。
「名前とか考えてなかったな……どうしようかな……弥生は、なにかあるか?」
「ふふ、そうね…………んっ……――――――っっっっ!!!」
 ふいに、弥生が息を飲んだ。まるで、何かがこみ上げてきたかのように、膨れた自分の下腹に手を伸ばして。
その四肢が強張り、顔に苦渋を貼り付けて、突如うめき声をあげた。
「う、ううぅぅ! あ、ああぁああ――――っっ!!」
「や、弥生……弥生!」
 今までの穏やかさが嘘のような苦しみ方。郷市の問いかけにも、応じてこない。
「い、いた……あ、ああうあぁぁぁ……い、いたい……」
「やよ………せ、せんせい! 弥生が、せんせい!!」
 すぐにドアが開け放たれて、根室夫妻がベッドに駆け足で寄る。郷市は、なす術もなく二人に場を譲り、遠巻きにそれを見る。
「産まれるな。すぐに、分娩室へ」
 根室は、花江に色々と指示を渡す。それに頷くと、痛みに身体を固くしている弥生に優しく話しかけ、陣痛の収まりを見たところで彼女を立たせ、隣の部屋へと運んだ。
「あ、あの、せ、せんせ……」
「市サンいよいよ孫と対面じゃぞ」
 そのまま隣の部屋へと根室は消えた。


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