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『Twins&Lovers』
【学園物 官能小説】

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『Twins&Lovers』-143

「ねえ、お父さん」
「ん? なんだ?」
「わたしね、お父さん大好き……」
「な、なんだ急に……」
「お父さんひとりでも、一所懸命わたしを育ててくれたもの。だから、この子も……」
「………」
「それに、お父さんもいるから」
 弥生は、郷市の葛藤を知っていたのかどうか。
しかし、彼女ははっきりと選んだのだ。自分と……父と共にあることを。
「弥生……やっぱり、おまえ、俺より……大人だな」
「うん?」
「も、もう……我慢できねえ……泣くわ、俺」
 ぶわ、と大粒の涙が郷市の目に溢れ、弥生を胸に抱きしめて郷市は声を上げて泣き始めた。
「お、お父さん……?」
「弥生……弥生……ありがとうな……俺……お前の父親だってこと……幸せだ……」
「お父さん……」
 弥生はそんな父の胸に、すがりつく。土の匂いがする。それは、とても暖かいものだった。
「弥生……」
「お父さん……」
新しい生命を間にして……。静かに親子は涙を流し続けていた。………』





「ワ、ワイは……」
 観覧車が最も高い位置にたどり着こうとしたとき、ついに兵太は白状した。なにやら様子がおかしいことを、ふたみにやんわり質されたからだ。
「実は高いところが、アカンのです……」
「そうなんですか?」
 この観覧車は、兵太が乗ろうと言い出した。まさかその本人が苦手なものだとは思いもしないことだ。
「あ、あの……大丈夫ですか?」
「ま、まあ…飛行機に乗れんことはないし……そんなにひどいというワケでもないんで……」
 嘘だ。なぜなら、兵太の顔は青ざめている。恐る恐る下のほうを覗き込んでは、まるで天敵でも見つけたかのように目を逸らし、よせばいいのにまた下を見るのだ。
「無理は、しないほうが……」
 といって、ここまで来た以上、なにができるわけでもない。
「あの……それじゃ、どうして?」
「いや、その……ふたみちゃんがね、なんやら乗りたそうな顔してたからね」
 青い顔で苦笑いの兵太。
「たぶん、自分からは言い出しにくいんやろな、と思うたんで、連行したのですわ」
「兵太さん……」
「へへ……ワイいうたでしょ。ふたみちゃんのためなら、火でも水でもこわないて……」
 引きつって笑う兵太。ふたみの胸は、大きく鳴った。
「兵太さん」
「はいな?」
「怖いなら、目を閉じてたほうがいいですよ」
「目を?」
「はい。目を閉じれば、下は見えません」
「そ、それは確かに」
「はい。ですから目を、閉じてください」
「………」
「目を、閉じて……」
 有無を言わせぬ迫力を感じるのはなぜだろう? 兵太は言われるままにきつく瞼を重ね合わせた。
「ね……怖くないでしょ……」
「そ、そうやね。わっ」
 ふいに、ボックスが小さく揺れた。兵太は血の気が一気に引くが、目を開かない。多分、突然吹いた風にでも、煽られただけなのだろう。だとしたら、揺れた光景は見たくない。
「………」
「………」
 ふと、闇の向こうから静かな息づかいが迫ってくるのに気がついた。続いて、両頬になにか柔らかくて暖かいものが添えられた。
「ふた――――」
 言葉は、急に奪われた。
 思わず開いた視界が捉えた、朱に染まるふたみの小さな顔。そして、確かに触れ合っている互いの唇。
「………」
 兵太は、自分の幸福を心から天に感謝した。


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